ある夏の午後、長谷川貴明は故郷の小さな町に戻ってきた。
かつて住んでいた家は、今は人が住んでおらず、ふとしたきっかけで懐かしさに駆られ、友人と共に訪れたのだった。
周囲はすっかり様変わりしていたが、家の外観だけは当時のままの姿を保っていた。
扉を開けると、内部は薄暗く、埃が舞い上がる。
貴明は、昔住んでいた時の記憶が鮮明によみがえり、懐かしい感情に浸る。
一方、友人の佐藤は、一歩足を踏み入れた瞬間、何か肌に感じる異様な空気にぎょっとした。
しかし、そんなことにはお構いなしで、貴明は一人で部屋を歩き回り始めた。
壁にかけられた古びた鏡が目に入った。
「こんなところにあったっけ?」貴明は思わず鏡に近寄った。
何気なく自分の姿を映すが、その瞬間、彼の返った顔が微かに歪んで見えた。
心の奥に不安が広がる。
佐藤もその様子に気付き、「貴明、大丈夫か?」と声をかけた。
「なんともないよ。ただの鏡さ。」貴明は笑って誤魔化したものの、心の中の不安は拭いきれなかった。
彼は意識的に話題を変え、部屋全体を眺めることにした。
そんな時、ふと目に留まったのが古い本棚だった。
「この本、昔もあったかな?」貴明は一冊の本を取り外した。
表紙は色あせ、タイトルはかすれて見えない。
興味が湧いた貴明はその本を開いてみた。
しかし、ページをめくるごとに、文字がすぐに消えていってしまった。
「なんだこれは?」彼は驚き、佐藤に見せようとした。
だが、彼はその瞬間、背後で「継」の声を聞いた気がした。
振り返ると、誰もいなかった。
「なんかおかしいよ、この本。」貴明は焦り始め、「ちょっと外に出よう」と言った。
二人は家を出て、外の空気を吸った。
視界が晴れるが、心の中に残る違和感は消えなかった。
その夜、貴明は家に帰ってもその本のことばかり考えていた。
「あの本には何が書かれていたんだろう?」思わずまた一度取り出してみたい衝動に駆られた。
しかし、過去のことを思い起こさせるものが怖くて、貴明はそれを思いとどまった。
数日後、彼は再び友人とともにその家を訪れた。
今度は友人も興味津々で、あの本を見つけて隠された謎を解こうと言った。
貴明は渋るも、結局友人に押し切られ、再び家の中に入ることにした。
しかし今度、部屋は何かが変わっていた。
薄暗い空気が重く、まるで何かがそこにいるような感じがした。
鏡も、さっきよりずっと不気味に見えた。
「大丈夫、すぐ終わらせよう。」佐藤が言った。
二人は元の部屋に戻ると、本棚の前に立ち、再び本を取り出した。
「確かこのページに何か載っていたはず。」貴明はページをめくるが、またもや文字が消えていく。
その時、「映」という言葉が何度も耳に残るように響いた。
二人は息を呑んだ。
これまでの出来事が夢だったのか、現実なのか分からなくなってくる。
次第に、二人の姿も薄れていくかのようだった。
「貴明、戻ろう!」佐藤が叫ぶが、それも消えそうになる。
「早く出ないと、何かが起こる!」貴明の心臓は高鳴り、なんとか逃げようと焦る。
しかし、身動きが取れず、まるでその場に縛られているかのようだった。
次の瞬間、貴明は気がつくと、もう一度鏡の前に立っていた。
しかし、そこには自分の姿が映っているのではなく、かつての自分が映し出されている。
そして、彼は消えていく様子を見ていた。
全ては終わることなく、まるで時が繰り返されているようだった。
彼はそのまま消える寸前、「どうしてこうなったんだ…」と呟き、静寂が戻る。
また新たな物語が始まろうとしている。