夜の静けさが支配する小さな街、光の届かない裏通りにある古びた神社。
その神社の奥には、昔から「消えた砂」と呼ばれる謎の現象が存在していた。
あまりの不気味さから、村人たちは近づくことを避け、誰もその神社を訪れることがなかった。
しかし、それに惹かれた少年、健二はその伝説を確かめるために友人たちを誘いだした。
「俺、あの神社を見に行くから、お前たちも来いよ」と言った健二。
友人たちは少々不安げな表情を浮かべたが、彼の明るさに押されて結局は神社へと向かうことにした。
夕暮れ時、神社の入り口に立つと、周囲は不気味な空気で満たされていた。
しかし、好奇心旺盛な健二は、神社の中へと足を進めていく。
「ここだ、これが消えた砂の伝説がある場所だ」健二は神社の奥に足を踏み入れ、思わず息を呑んだ。
そこには、砂で覆われた地面が広がっていた。
しかし、その砂は普通の砂とは明らかに異なっていた。
人の手の形をした無数の凹みが広がっており、まるで誰かがその砂の中に沈んでいるかのようだった。
「これってさ、もしかして……」友人の一人、亮が言いかけた瞬間、空気が変わった。
周囲の砂が微かに波打ち、健二の足元に集まり始めた。
彼は驚き、友人たちを振り返った。
彼の視線の先には、薄暗い影が現れた。
影は砂の中からゆらゆらと浮かび上がり、徐々に人の形を成していった。
「消えた砂」の伝説は、長い間消失した人々を吸い込む言い伝えだとされていた。
影は徐々に鮮明な形を持つ人間の姿となり、目を見開いた瞬間、友人たちは恐怖に駆られ、一斉にその場から逃げ出した。
しかし、健二はその場に立ち尽くし、影に目を奪われていた。
「あなたは……誰?」健二の問いかけに、影は静かに響く声で答えた。
「私は、この砂の中に閉じ込められた者。他の者たちもこの神社で消えていったのだ。」その声には、長い間の孤独と悲しみが宿っていた。
影は続けた。
「ただ、私を解放してほしい。私の記憶は、この砂の中に消えてしまった。私の存在を、誰かが覚えていてくれれば……」
薄れていく影の姿に、健二の心に一種の使命感が生まれた。
「俺、必ずあなたを覚えている。消えないように、忘れないよ。」すると影は微笑み、静かに言った。
「それが私にとっての望み……」
友人たちが数分後、健二のもとに戻ってきた。
その場はもう静寂が戻っていた。
影の姿は消え、ただ砂だけが無心にそこに残されていた。
健二は友人たちに向き直り、小声で言った。
「俺が知っていることは、決して消えないよ。」
それから数年後、健二はあの神社に行くことはなかったが、心の奥底に彼の思い出がしっかりと根付いていた。
砂の中に閉じ込められた想い、その者の望みを忘れずに生きていくのだと心に誓った。
再びあの場所に足を運ぶことはないだろうが、影の思いは健二の中で永遠に覚えられるはずだった。