ある町の外れに、ひっそりと佇む古い神社があった。
地元の人々は、この神社を「消える神社」と呼び、特に近づこうとはしなかった。
神社の元には、長い間誰も参拝することなく、放置されたような状態であった。
しかし、好奇心旺盛な大学生の佐藤は、その神社の噂を聞いて冒険心を抱いていた。
ある夕暮れ、日が落ちる前の薄明かりの中、佐藤は友人の田中と共に神社を訪れた。
二人は、噂を確かめようと神社の境内に足を踏み入れた。
すると、最初は何も感じなかったものの、次第に周囲の空気が重くなっていくのを感じた。
何か不穏な気配が漂い、友人である田中は一瞬躊躇ったが、佐藤はその様子に興奮を覚え、神社をさらに奥へと進んだ。
神社の中には、古びたお社が一つ。
供え物をするための台は壊れ、周囲には雑草が生い茂っていた。
「怖いな」と田中が呟くと、佐藤は「大丈夫だよ、何か面白いことが起きそうだ」と安心させるように微笑んだ。
だが、佐藤も心の奥では、不安がいなめなかった。
その後、二人は社の近くに立っていた。
夕日が沈み、暗闇が迫る。
突如、シャッという音がして、佐藤が視線を移すと目の前に小さな光が漂っていた。
「これ、なんだろう?」と田中の声が耳に入った。
しかし、その光は次第に大きくなり、二人の目の前で一つの形を持ったものへと変わっていった。
目の前に立ち現れたのは、薄く照らされた人影だった。
静かに、しかし確実に、二人に向かって歩み寄ってきた。
驚きと恐怖が佐藤の心を掴む。
「彼女、誰かだ?」
その瞬間、影は形を変え、何もないところから消えたように見えた。
しかし、消えたはずの影が、じつは彼らの後ろに立っていることに気づくのは、ほんの数秒後であった。
「な、なに?」と田中は恐怖で声が震えた。
佐藤は影を見上げた。
「私には、あなたたちがいる。あなたたちが、私の運命を知りたいのなら、この場での決断が必要です」と影は告げた。
その声は、低音の不気味なもので、不思議な理をもたらしていた。
「なにを決めればいいんだ?」佐藤はしどろもどろになりながら尋ねた。
「消えた者たちの声を聞くか、それとも無視して帰るか。選ぶことにも、意味があるのだ」と影は続けた。
佐藤は心の中で葛藤した。
好奇心が勝り、田中と話し合う。
田中は「帰ろう」とずっと言い続け、その場から離れたかった。
しかし佐藤は、「でも、もしかしたら何か大事なことがわかるかもしれない」と影への興味が勝っていた。
「私は消えた者の一部、私は還ってくる。そしてあなたたちの運命も、私の手の中にある」影の声がかすかに響いてきた。
田中は、その言葉に怯えを感じ、思わず後退りした。
「佐藤、やめよう、早く帰ろう!」と叫んだ。
結局、佐藤はその場で立ち尽くし、田中は逃げ出した。
影は佐藤をじっと見つめ、何かを期待するように待っていた。
彼女の瞳には、不思議な光が宿っていた。
やがて、佐藤も背を向け、自らの選択を下す決心を固めた。
その瞬間、彼の目の前で影は消え、元の静けさが戻った。
しかし佐藤は、その選択を一生後悔することになる。
二度とその神社には戻れず、あの夜の光景が心の奥に刻まれるだけである。
田中は無事に帰ったが、周囲の友人たちは彼を不審がり、佐藤は次第にその存在を忘れ去られていく。
消えた神社には、彼のような好奇心ある者たちがいつまでも訪れることはなかった。