静かな山間に佇む宿、古びた木造の建物は、訪れた者に不安感を与える独特の雰囲気を漂わせていた。
宿の名前は「光明荘」、その名の通り、かつては美しい光に包まれた場所だったという。
しかし、時が経つにつれてその光は薄れ、今では宿の周囲を暗い影が支配していた。
宿に宿泊することになったのは、大学生の翔太。
彼は友人の二人、明美と直樹と共に、心霊スポット巡りの一環としてこの宿にやって来た。
三人は肝試しを楽しむつもりで、好奇心と刺激を求めていた。
しかし、この宿には二つの言い伝えがあった。
一つは、かつて宿の主人が尋ねてきた客を一人、また一人と消してしまったというもの。
もう一つは、夜更けになると電気が突然消え、どこからともなく光が差し込む現象が起きるというものだった。
夜が深まり、三人は宿の薄暗い廊下を歩いていた。
彼らの笑い声が反響する中、突然、カチッという音とともに宿の照明が消えた。
翔太は一瞬驚いたが、明美は笑いながら「これが噂の現象か!」と叫んだ。
直樹も興奮して、携帯電話のライトを照らし始めた。
「どこかに光を探してみようよ」と翔太が提案した。
三人は宿の中をさらに探索することにした。
まるで一つの同心円を描くように、幾つかの部屋を見て回ったが、どこも薄暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。
その時、翔太の目に奇妙な光が映った。
「見て!あの部屋から光が漏れている!」と翔太が指を差すと、明美は「行ってみよう」と言って先に立った。
直樹もそれに続き、三人はその部屋の扉を開けた。
しかし、部屋には何もなく、ただ静寂だけが広がっていた。
「なんだ、ただの光か…」とがっかりする翔太。
明美は部屋の端に何かを見つけた。
「待って、これ…手紙?」彼女がその紙を拾い上げると、内容が薄暗い言葉で綴られていた。
「光の中に、消えた者の名を呼べ。」
急に不安が広がる。
直樹が「さっきの話、俺たちも消えちゃうのかな」と震えた声でつぶやいた。
その時、また電気が消え、周囲が完全な闇に包まれた。
三人の心には希望と恐怖が交錯していた。
明美は恐る恐る声を出した。
「もしこの宿で消えた者がいるなら、その名前を呼べばいいのかな…?」
翔太はほんの気持ちを込めて叫んだ。
「消えた者よ、出てきてくれ!」その瞬間、部屋の中に異様な風が吹き荒れ、薄暗い光が再び差し込むとともに、一瞬だけだがその奥に人影が見えた。
「誰か、そこにいるのか?」翔太は目を凝らしたが、影はすぐに消えてしまった。
明美と直樹は顔を見合わせ、恐怖で固まっていた。
翔太は再度、大声をあげた。
「お願いだ、出てきて、もう怖くないから!」
その瞬間、部屋の中がまばゆい光に包まれた。
彼らは何が起こっているのかわからず、目の前の光に引き寄せられていく。
だが、光の中から聞こえる声は、かつて消えた宿の主人のものだったと思うと、更に怖れが増した。
「私とともに、二度と帰れない憂いを分かち合え」と、その声は響いた。
翔太は必死にその場から逃げ出した。
明美と直樹も彼に続いて後ろを振り返らずに逃げた。
宿の外に出ると、一度は消えていた宿の中の光が、今やその全容を明るく照らしているかのようだった。
三人は振り返ることなく、暗い森の方へと逃げ去った。
夜の静寂の中で、宿の「光明荘」は再び静寂に包まれ、過去の記憶がその影に隠れていることを、彼らは知らなかった。
宿の灯りの中で、その代償を支払った者の存在が、いつまでも待っているのだった。