「消えた記憶の村」

私の名前は佐藤健一。
祖父が亡くなった後、私は一人暮らしの実家に戻ってきた。
古い家で、物心ついた頃から祖父と過ごした思い出がたくさんあったが、その記憶は次第に薄れていくばかりだった。
引っ越してきた時、家の中はまるで時間が止まったかのように静まり返っていた。
ずっと放置されていた部屋には、薄暗い空気が漂っていた。

ある晩、家の片付けをしていると、押入れの奥から祖父の遺品の一部を見つけた。
それは、祖父が書いた手紙や日記、そして一枚の古い写真だった。
その写真には、若き日の祖父が笑顔で映っていたが、背景には見覚えのない場所が映っていた。
何とも言えぬ不気味さが私の心に迫り、写真をじっと見つめているうちに、背後でふと寒気が走った。

その夜、夢の中に祖父が現れた。
彼は静かに私に向かって話しかけた。
「健一、あの場所に行くな」と彼の声は低く、そして強い警告を含んでいた。
目を覚ますと、冷や汗が流れ、心臓が高鳴っていた。
夢の中の祖父の言葉が頭から離れなかったが、私は好奇心に駆られ、その写真の場所を探しに行くことに決めた。

次の日、私は地元の人に話を聞いて、その写真に写っていた場所が祖父の若いころに住んでいた村であることを知った。
その村は、かつて繁栄していたが、今は廃村となり、誰も住んでいない場所だった。
「消えた村」とも呼ばれていて、そこでは過去の住人たちが次々と消息を絶ったという噂があった。

それでも、祖父の言葉が私を引き留めようとしたのか、村に向かう途中で何度もためらった。
しかし、結局のところ、私はその村に足を踏み入れる決心をした。

村に着くと、周囲はひどく静まりかえっていた。
朽ち果てた家々と草に覆われた道。
まるで時間が止まってしまったかのようだった。
村の中心には古い神社があり、そこは薄暗く、不気味な空気が漂っていた。

神社に近づくにつれて、何かが胸騒ぎを引き起こす。
足元には朽ちた木の根が張り出しており、まるで私の足を引き止めようとしているようだった。
それでも、私は無理やりにその神社の境内に入り込んだ。

すると、突然、私は眩しい光に包まれた。
目を細めると、眩しい光の中から無数の影が私を取り囲んでいた。
影は祖父の声で語りかけてきた。
「健一、ここは危険だ。戻れ…戻ってくれ…」その声が徐々に消え入り、私は恐怖に駆られて立ち尽くした。

気がつくと、影たちは次第に融合し、まるで吸い込まれるように消えてしまった。
私は慌ててその場から逃げ出し、神社を後にした。
だが、何か大切なものを失った気がした。
自分の存在が薄れているように感じた。

家に戻ると、次第に物の配置が変わっているのに気がついた。
自分の記憶の中から祖父との思い出が消え去っていく感覚がした。
大事な物を失ったのに、自分が何を失ったのか思い出せなかった。
まるで思い出そのものが、霧のように消えてしまったかのようだった。

日々が過ぎていくうちに、自分がどんどん孤独になっていくのを実感した。
ついには、毎日のように見ていたはずの祖父の写真も、手に取ることができなくなった。
現実と夢の境界が曖昧になり、自分がどこにいるのかわからなくなってしまった。
それでも、心の片隅には祖父の遺した警告とともに、消えゆく思い出が残されているのだろうか。
なぜなら、私 자신が過去の一部を失ったように感じているからだ。

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