「消えた親友と影の執着」

彼女の名前は「造(ぞう)」。
ある静かな町に住む、誰からも愛される普通の女の子だった。
造は地域の小学校の教師で、生徒たちに信頼され、親からも頼りにされていた。
毎日明るい笑顔を絶やさず、子どもたちと楽しい時間を過ごしていたが、彼女の内に秘めた思いは誰も知らなかった。
それは永遠に失われた「元(もと)」との関係だった。

元は、以前に造の親友であり親近感のある存在だったが、ある日突然、詳しい理由もなく姿を消してしまった。
造は元の失踪を信じられなかった。
彼女は毎晩、元のために祈り、町の神社を訪れ、様々な方策で元の行方を突き止めようとした。
その結果、かすかに元の気配を感じるようになる。

しかし、時が経つにつれて、造は次第に異常な執着心を抱くようになった。
元を探し続けるうちに、友人たちとの関係が徐々に疎遠になり、生徒たちを教えることも次第に手を抜くようになった。
心の奥には、元と再会するための強い思いが渦巻いていた。
そして、それは次第に造を蝕むように変わっていった。

ある晩、造は夢の中で元に会った。
その夢の中の元は、うっすらとした姿で彼女を見つめ、「私を見つけてほしい」と囁いたのだ。
目が覚めた瞬間、造の胸に何かが宿ったような感覚を抱えた。
彼女はその声の指示に従い、町の外れにある古い廃墟に向かうことを決めた。
この場所には、かつて元が好んで遊んでいた秘密の場所があると聞いていた。

廃墟に一歩足を踏み入れると、不気味な静寂が包んでいた。
薄暗い空間の中を慎重に進む造は、心の奥にひそむ執着心が膨らんでいくのを感じた。
彼女は、元がここにいると信じて疑わなかった。
薄暗い廊下に沿って進むと、突然、彼女の耳元でかすかな声が聞こえた。
「私を見つけて…」

その声に導かれるように、造はさらに奥へ進んだ。
目の前に現れたのは、昔の自分たちの写真が壁に貼られた部屋だった。
そこに映ったのは笑顔で楽しむ元と造だった。
彼女の心は高鳴り、涙が溢れそうになった。
部屋の隅には古びた鏡が置かれていた。
それを見つめた瞬間、鏡の奥から元の姿が浮かび上がった。
だが、その表情は以前の穏やかなものとは違い、どこか憎しみを滲ませていた。

「待っていたんだ、造…」元はそう呟いた。
造は驚きと興奮が入り混じり、目の前の存在が本物の元であることを信じた。
だが、元は続けた。
「私はここから出られない。君がこの場所に来ることも、私の執着だ。信じていたのに、なぜ私を見つけてくれなかったの?」

その瞬間、造は背筋が凍るような恐怖を覚えた。
彼女の心を蝕んでいた執着心が、元の姿を変えてしまったのだ。
造は急いで後退し、扉を探した。
だが、扉はいつの間にか閉ざされ、出られないことを悟った。
元は鏡の中から手を伸ばし、力強く引き寄せようとしてきた。
「私の元へ来て…」

造は必死に抵抗しながら、「違う!あなたは私の親友だった!」と叫んだ。
すると元の顔がさらに変わり、暗い笑みを浮かべた。
「私の存在は、君の執着が生んだもの。私を解き放つことができるのは、君だけなんだ…」

その瞬間、造は理解した。
元は彼女の執着心を吸い取る存在になってしまっていたのだ。
彼女の元への信頼と愛情が、いつの間にか異形の存在を生み出す結果を招いてしまった。
造は泣きながら懸命に抵抗を試みたが、その時、背後から冷たい風が吹き、一切が虚無に包まれた。

次の瞬間、造は気がつくと、再び普通の町に戻っていた。
ただ、彼女の心は空虚で、元の存在がもはや彼女の思い出の中でしかないことを痛感した。
町の人々は、彼女に何事もなかったかのように接しているが、造の中には永遠に戻らない元への思いが薄らいでいくことはなかった。
それは彼女にとって、執着のために生み出された影であり、決して触れられない存在なのだった。

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