「消えた者たちの倉庫」

佐藤圭介は、都会の真ん中にある古びた倉庫でアルバイトをしていた。
倉庫は何年も使われていないようで、埃まみれの荷物が無造作に積まれ、薄暗い雰囲気が漂っていた。
そんな中、圭介はある一つのことに気を取られていた。
それは、倉庫の隅にある小さな扉だった。

その扉は普段は閉ざされており、誰にも開けられたことがないと言われていた。
不気味な印象を受けるが、好奇心から圭介はその扉を開けてみたいと思うようになった。
ある夜、仕事が終わった後、他のスタッフが帰った後の静けさの中、彼はついにその扉に近づく。
重い扉は意外と簡単に開き、中に入ると、そこには狭い暗い庫が広がっていた。

庫の中には、長い間放置された棚や箱が乱雑に置かれていた。
圭介は、その奥へ進んでいくと、薄暗い空間に何かがあるのを見つける。
それは古びた日記だった。
彼は興味を持ち、日記を手に取る。
そこには、昔の住人と思われる女性の筆跡で綴られた心の叫びが記されていた。

「私のものは消えてしまった。」そんな言葉が繰り返されており、徐々に圭介は気持ちが押し潰されていくような感覚に襲われる。
彼はその女性が何を失ったのか、興味を持ちつつも恐怖を感じ始める。
すると、庫の中に張り詰めた静けさが崩れ、冷たい風が彼の背筋を撫でていった。

急に背後で物音がした。
圭介は振り返ると、そこには誰もいない。
だが、なぜか彼は不安を感じる。
一瞬、目の前の空間が歪み、何かが消えそうな感覚を覚えた。
その時、彼は日記の中の女性が語る話に耳を傾けることにした。

「彼は私を探している。私は何かを奪われた。」その文面が圭介の心に響く。
彼は次第にその女性の呪縛を感じ、彼女に感情移入するようになってきた。
自分のことのように感じるその錯覚は、圭介の心の中に暗い影を落とし始めた。

気が付くと、圭介はその庫の奥にいる自分自身が見えなくなっていた。
まるで空間が彼を飲み込んでいくようだった。
それでも好奇心に駆られ、彼はさらに奥へと進んだ。
その先には、古びた鏡が置かれていた。

鏡の中には、圭介ではない誰かの顔が見えた。
それはかつての女性そのものであり、悲しげな空虚な眼差しが圭介を見つめ返している。
「私を見つけて。」その言葉が、彼の心の奥に強く響いた。

圭介はその声に導かれるように、鏡に手を伸ばす。
そして、その瞬間、彼の意識は遠のき、目の前の光景が消え去ってしまった。
次に彼が気が付いたとき、まるで夢から覚めたかのように、元いた倉庫の中に立っていた。
荷物の間には、薄明かりが差し込み、物音一つしない静けさが支配していた。

だが、彼の手には何も残っていない。
ただ空っぽになった日記を握りしめている自分しかいなかった。
圭介は不安な気持ちを抱えながら倉庫を後にしようとしたが、背後からは冷たい風が流れてきた。

その後、圭介は数日後に姿を消した。
そして、彼が仕事をしていた倉庫では、別のアルバイトが入ることに。
彼がいなくなったその場所でも、再び同じような女性の声が聞かれることとなった。
「私を見つけて。」と。

倉庫はその後も長い間、誰の姿も見られず静まり返っていたが、恐怖を知らない誰かが再びその扉を開ける日を静かに待っているようであった。

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