小さな町に住む高橋美咲は、幼馴染の健太と互いに強い絆で結ばれていた。
二人は共に育ち、夢を語り合い、高校を卒業した後も一緒に過ごすことが多かった。
しかし、ある日、美咲は健太が引っ越すことを知った。
彼の家族は新たな環境で新生活を始めるため、町を離れることが決まったのだ。
「冗談でしょ、健太?」美咲は目を潤ませながら呟いた。
健太は笑顔で「大丈夫、いつでも会えるさ」と言ったが、その言葉は彼女の心をさらに苦しくさせるものだった。
美咲は健太との別れを受け入れられず、何日も眠れぬ夜を過ごした。
彼の引っ越しが迫る中、美咲は健太に一緒に出かけることを提案した。
二人で思い出の場所を巡りながら、楽しい時間を過ごし、別れの瞬間を少しでも心穏やかに迎えたかった。
彼女の案に健太も賛同し、夜の公園へと出かけた。
公園には月明かりが優しく照らしており、二人は静かなベンチに腰掛けた。
美咲は健太の手を強く握りしめ、「私、健太のことが大好きだった。離れたくない」と告白した。
彼女の心の内を明かすと、健太は驚いた表情を浮かべた。
そして、彼は静かに「俺も、美咲のことが好きだった」と言った。
その瞬間、美咲の心は喜びで満たされたが、同時に不安も押し寄せた。
健太が離れてしまう現実から逃れられない。
二人はしばらく何も言えず、ただお互いの存在を感じながら時間が過ぎるのを待った。
すると、突然、遠くからかすかな音が聞こえた。
それは、古びた賽銭箱の陰で、誰かが呼ぶ声のような、耳を引く囁きだった。
「私たちの愛が遠くに行くことはない…」その声は美咲の心を不気味に掴む。
しかし、健太はその声には気づいていない様子だった。
「ねぇ、健太。あの声、聞こえない?」美咲は声を震わせながら尋ねたが、健太は消えたように首を振った。
美咲の胸に不安が忍び寄り、もっと健太のそばにいたいと思った。
彼女は、不安な心情から逃れられなくなり、その場に留まっていた。
「約束するよ、ずっと想っているから…」健太の言葉は温かかったが、不安を消すことはできなかった。
美咲はその言葉を受け入れつつ、どこか冷たいものを感じた。
その夜、家に帰る途中、美咲は何度も振り返ったが、健太の姿は見えなかった。
彼の姿が像のように消えてしまったのだ。
数日後、健太の引っ越しの日を迎えると、その日を心待ちにしていた美咲だったが、思いがけないことが起こった。
彼女の元に一通の手紙が届いた。
「ずっと美咲を思っている。だけど、俺は新たな道を歩む。離れても心はつながっているから。」その言葉が美咲の心を締め付けた。
彼女は健太が新しい愛を見つけているのではないかという恐れが抑えきれなかった。
時が経ち、美咲はその手紙を胸に秘めて新しい生活を送るよう心がけた。
しかし、彼女の心には常に健太の影が残っていた。
夜になると、先日聞いた声が再び美咲の耳に響くことがあった。
「私たちの愛を信じて、決して離れない…」
その声が繰り返されるたびに、美咲は心がざわついた。
愛は離れないはずだという言葉が、次第に彼女の心の奥底に埋もれていった。
彼女はその声に導かれ、町の外れにある古い神社に足を運ぶことになった。
その神社には、忘れられたような恋人たちの霊が宿っていると言われていた。
美咲はそこで健太のことを思い、彼の名前を口にした。
「健太、私はあなたを忘れない…」その瞬間、周囲の空気が変わり、静かな囁きが響いた。
「あなたも、こちらに来て…」
翌日、美咲の姿は彼女の家族にも友人にも見えなくなってしまった。
彼女は光に包まれながら、健太と再び出会う場所へと導かれていった。
愛の力が形を変え、彼女は神社の中に永遠に結ばれてしまった。
彼女の心は、健太とずっと一緒にいることを決めたのだった。