「消えた祈りの村」

静かな山間にひっそりと佇む集落、そこは昔から「消える村」と呼ばれていた。
人々はこの村に足を踏み入れることを恐れ、訪れた者たちはいつも、一夜の宿を借りることなく、すぐに村を後にすると言われている。

ある日、大学生の翔太は友人たちと共に、この消える村の噂を確かめに行くことを決意した。
彼は好奇心旺盛な性格で、友人たちもその気にさせた。
「ただの噂だろう」と言いながら、夜の帳が下りる頃、彼らは村に到着した。
月明かりに照らされた村は、どこか異世界のような雰囲気を醸し出していた。

村には、かつての賑わいを感じさせる古い家屋が点在していたが、そのほとんどは朽ち果てて、草や蔦が覆っていた。
翔太は一番奥にある小さな神社に引き寄せられ、他の友人たちにも「見に行こう」と声をかけた。
神社の周囲は静まり返り、まるで時間が止まったかのようだった。

翔太たちが神社に近づくと、突然風が強まり、木々がざわめく音が響いた。
友人たちは不安そうに顔を見合わせたが、翔太は「大丈夫だ、ちょっと写真を撮って帰ろう」と言って神社の中に足を踏み入れた。
その瞬間、奇妙な感覚に襲われ、彼は自分の中に重圧がかかるような感覚を覚えた。

神社の中には、祀られている神様の像と、古い札が並んでいた。
その札には、「失われた者たちの祈り」と書かれていた。
翔太はその言葉に惹かれ、しばらくその場から動けなくなった。
友人たちはそんな彼を心配し、何度も呼びかけたが、翔太の意識は次第にぼやけていった。

しばらくして、彼が我に返ると、周囲は再び静まりかえっていた。
しかし、友人たちの姿はなくなっていた。
「まさか、置いていった?」と翔太は思い、慌てて神社を出た。
外に出ると、冷たい風が吹き抜け、彼は恐怖に駆られた。
村はもはや無人のように静かで、足音だけが響いていた。

翔太は村を探索しながら、彼の声を繰り返し呼ぶも、誰の反応もなかった。
次第に心に不安が広がり、彼は自分が一人だけ取り残されたのではないかという思いに襲われた。
辺りを何度も巡るうちに、彼は見覚えのない道に迷い込んでしまった。

急に、目の前に一人の女性が現れた。
彼女は白い着物を着て、透き通るような肌を持っていた。
翔太は驚き、彼女に助けを求めた。
「友人たちが消えたんです、どこにいるの?」女性は静かに翔太を見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「この村では、誰かが失われることで、誰かが消えていくのです。」

翔太は混乱した。
「それなら、友人たちは?」彼女は悲しげに微笑み、彼女の目に涙が浮かんでいるのが見えた。
「あなたがこの村に足を運んだことで、彼らはその代償として消えてしまったのです。この神社は、訪れた者に無意識の祈りを捧げさせ、失われる者を選ばせる場所なのです。」

翔太は愕然とした。
彼が感じていた重圧は、この村に取り込まれるためのものであり、友人たちを守るためには、彼自身がこの村に残ることが求められていたのだ。
しかし、彼は強い意志で再び口を開く。
「私は、友人たちを取り戻すことができますか?」

女性は優しく笑い、「それはあなたの決断次第です。」と言った。
その瞬間、翔太は彼自身の心の中で葛藤を感じた。
失うことの恐怖と、友を思う気持ち、そして自らの命を守るための選択。
彼の心は苦しみに満ち、無意識のうちに、自らの命を選んでいた。

気がつくと、彼の目の前には再び神社の光景が広がっていた。
周囲には誰もいなかったが、彼は心の底から叫んだ。
「私は生き続ける。」その言葉を最後に彼の視界は瞬時に変わり、彼はそのまま村の外に出て、しっかりと地面に足をつけた。

しかし、背後からは、彼の友人たちの姿は消えており、今もなお、村のどこかで失われ続けていることを知る由もなかった。
翔太は帰路につく中で、友を思いながら孤独な気持ちを抱き、消える村の恐怖を忘れることができなかった。

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