「消えた真実」

夜が深まるにつれ、静まりかえった古い町に、秋本家の古宅があった。
その家は長いこと空き家になっており、時折通りかかる人々は不気味な雰囲気に背筋を凍らせた。
町の伝説によれば、昔、ここに住んでいた秋本剛志という男は、ある晩、不可解な消失を遂げたという。
彼は村の何事にも熱心に参加し、功績を挙げていたが、ある日突然、町から姿を消したのだ。

秋本剛志の妻、直美は彼の失踪から数年が経つも、彼の帰りを待ち続けていた。
しかし、彼女が抱えていた想いは次第に町の人々から冷ややかな目で見られる根源となった。
町の人々は、剛志の失踪には何か不気味な力が働いていると噂していたのだ。

ある日、直美は彼の遺品を整理するために古宅に足を運んだ。
訪れたその日は、ひんやりとした風が吹き、薄暗い家の中には霊的な気配を感じさせる不気味さが漂っていた。
彼女はおそるおそる家の中を探索し、剛志が残した思い出の品々を見つけ出す。
古びた日記帳が目に留まり、直美はそれを取り上げた。

ページをめくると、彼が心の内を綴った文章が並んでいた。
彼は次第に何かに取り憑かれていく自分を感じ、恐怖を覚えていたことが書かれていた。
そして、最後のページには「消えてしまいたい」という言葉が力強く記されていた。
直美の心に恐怖と不安が広がった。
何が彼をそのような思いに至らせたのか、彼女は知りたいと思った。

その瞬間、家の中で冷たい風が吹き抜けた。
直美は立ち尽くし、恐る恐る周囲を見渡した。
しかし、そこには何も見当たらなかった。
彼女が心の中で剛志の名を呼ぶと、唐突に家の奥から圧迫感のある声が響いた。
「ここにいるぞ。」直美はゾッとした。
彼女はその声の正体を確かめるため、奥へ進んだ。

小さな部屋にたどり着くと、壁に映る影が見えた。
影はゆっくりと動き、まるで直美を見つめているかのようだった。
「剛志…?」と呼ぶと、影は一瞬ぴたりと止まり、奥へと引っ込んでいった。

直美はその影を追いかけた。
様々な思い出が交錯し、彼女は胸が苦しくなった。
影は地下室へと入っていく。
地下室の扉は古びていて、開けるのにも一苦労だった。
何とか扉を開け地下へと進むと、そこには真っ暗な空間が広がっていた。
直美はライトを照らし、先へ進む。

すると、床の隅に一つの扉があった。
扉の前には、剛志が大切にしていた時計が置いてあった。
その時計は動かず、静かに彼女を待っているようだった。
何かが彼女に伝えてくる。
「開けてみろ。」その声はかすかだったが、彼女の心に響いた。

直美は扉を開けると、薄暗い空間に足を踏み込んだ。
その瞬間、向こう側から異様な光が放たれ、彼女は驚愕した。
その光の中には、剛志の姿が浮かび上がっていた。
無表情で、彼女を見つめていた。
直美は心の中で感じていた再会の喜びと恐怖が交錯する。
剛志は何を求めているのか。

「直美、私は…消えてしまった。」彼の言葉は途切れ途切れで、無念が漂っていた。
「何があったの?」と尋ねると、彼は「真実を知った時、この世に残る意味を見失った。私を想っているか?」と囁く。

その瞬間、直美は彼に強く抱きつき、「あなたは私の中に生きている。だから消えないで!」と叫んだ。
しかし、彼の姿は次第に薄れていく。
そして彼は消えかけながら、「もう一度、思い出してくれ。」そう言うと完全に姿を消した。

直美は涙を流しながら、剛志がここに住んでいた証を強く心に刻んだ。
彼の思い出は、決して消えることがないと感じた。
彼女は深いため息をつき、冷たい地下室を後にした。
真実と向き合った先には愛が待っていると彼女は信じることで、過去を背負って生きていくことを誓った。

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