「消えた生け贄の夜」

望は静かな田舎の村にある神社だった。
夜になると、その神社は不気味な雰囲気に包まれていた。
そして、村の人々は神社の近くには近づかないようにし、特に夜には決して足を踏み入れないようにしていた。

ある夏の晩、若者たちは肝試しをするために神社に行くことを決めた。
参加することになったのは、圭司、明美、直人、そして和也の4人だった。
彼らは勇気を試すために、神社の境内で一晩を過ごすことにした。
夜の帳が降りると、あたりの気温は急に下がり、涼しさを感じた。
木々の間からは赤い月が見え、不吉な雰囲気を醸し出していた。

和也は少し怖くなりながらも、みんなと一緒に境内に入った。
彼らは、真ん中にある古びた社に近づくと、圭司が言った。
「ここが、舞台だな。」仲間たちは笑い声を上げて、いざ肝試しを始める。
その瞬間、直人は不意に何かを見つけた。
「あれ、見て!神社の裏に何かがある!」言われた方向を見ると、薄暗い森の中に小さな灯りが見えた。
誰もそれを気にせずにいたが、和也は不安な気持ちが募っていく。

「ちょっと様子を見に行こうぜ。」しかし、明美は「やめとこうよ。暗いし、何かあったら大変だし」と言った。
でも、興味を持った圭司は森の方へ向かおうとした。
和也は心の中で戸惑いを感じながら、皆について行くことにした。

ますます暗くなった森の中を進み、彼らは次第に異様な静けさに包まれていた。
灯りは次第に大きくなり、ついに明るく照らされた場所に辿り着く。
そこには、木でできた祭壇のようなものがあり、小さな生け贄と思われる人形が置かれていた。
そしてその横には古びたお札が立てかけられていた。

明美は恐ろしさから少し声を震わせながら言った。
「これ、何なの?」圭司は興味津々でお札を手に取った。
「これ、和の儀式か何かだろう。」その瞬間、風が吹き、木々がざわめいた。
和也は不安に駆られた。
「やっぱり戻ろう。」しかし、圭司は笑って、「大丈夫だって、ちょっとここに座って肝試し続けようぜ!」と無邪気だった。

不快な気配が徐々に近づく中、和也は心臓が高鳴るのを感じた。
周囲が異様に沈黙し、その瞬間、何かが空気を引き裂くように鳴った。
「あれ、何か聞こえた!」と直人が叫んだ。
すると、灯りが急に消え、真っ暗な森に沈んだ。

恐怖で彼らは慌てて逃げようとした。
しかし、進む道が分からなくなってしまった。
わけも分からぬまま、彼らは別々の方向に走り出した。
和也は必死に皆を呼び続けたが、誰の声も聞こえなくなっていた。
「明美!」叫んだが静寂しか感じなかった。

彼の頭の中には、あの人形が生け贄として捧げられていた姿がちらついていた。
和也は心の中で何かが迫っているのを感じた。
すべては彼が神社に来るべきではなかったという証拠だった。
思わず足を止めると、かすかに誰かの「和也…」という囁きが聞こえた。

その声に導かれるように振り返った和也は、薄暗い森の奥に光る目があった。
かすかに姿が見え、彼は逃げ去ろうとしたが、足が動かなかった。
目はますます近づき、その正体が明らかになると、彼の心は恐怖に押しつぶされそうだった。
その瞬間、和也は全身が冷たくなり、そこに立ち尽くしてしまった。

目の前に立つその者は、祭壇にあったのと同じような人形だった。
彼の心にも、言いようのない恐怖が忍び寄ってきた。
最後に和也は、「助けてくれ!」と叫ぼうとしたが、声にならなかった。
彼は次第に引き寄せられ、その存在の一部となっていった。
周囲の闇に飲み込まれ、彼は永遠にこの森に囚われることになった。
不気味な声は今も囁いている。
「和也…お前も私たちの仲間になる運命なのか…」

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