「消えた清水茶屋の呪い」

今から数年前、古びた茶屋のある小さな村が舞台となる。
この村には、地元の人々から「消えたお茶」として語り継がれている不思議な現象があった。
村人たちは、ある日突然、茶屋から心あたたまる香りの良いお茶を楽しむことができなくなったのだ。
人々は茶屋の跡地で何が起こったのか、噂話を交わすようになった。

その茶屋の名は「清水茶屋」。
店主の名前は健一で、彼は腕利きの茶人であった。
毎日、早朝から収穫した茶葉を丁寧に扱い、村人たちに愛されるお茶を淹れていた。
そんなある日、彼は村の奥にある山で、不思議な生え方をした古茶樹を見つける。
興味を引かれた健一は、試しにその茶葉でお茶を作ることにした。

清水茶屋で初めてそのお茶を提供した日、健一は異常なほどの人気を集めた。
そのお茶は風味が異なり、飲む者の心をリラックスさせ、まるでターゲットをしっかりと捕らえるかのような魅力を持っていた。
しかし、次第に健一はそのお茶が自分にも何か影響を与えていることに気がつく。
飲むたびに、彼の頭の中に他人の思念が響くようになっていった。

それから数週間後、村人たちがそのお茶の虜になっている頃、健一の姿はどことなく陰りを帯びていった。
彼の表情は暗く、時折不気味な笑みを浮かべるようになった。
人々は、そんな彼を見ることに不安を覚えるようになり、次第に茶屋の足が遠のいていく。
そんな状況を健一は気にせず、ただそのお茶を作り続けた。

ある晩、健一は夢を見た。
夢の中で、彼は古茶樹の下に立ち、樹が語りかけてくるのを聞いた。
「その茶葉は、他人の心を食らっている。お前の存在が薄れる。再び、言葉を交わせなくなる時が来る。」健一は目覚めた後、この夢が意味することを真剣に考え始めた。
しかし、魅了されてしまったそのお茶を捨てることはできなかった。

日が経つにつれ、街の茶屋から人々が次々と姿を消していくことを、健一は耳にするようになった。
彼もまた、見えない力に引き込まれるように、日ごとに消えてゆく自分を感じていた。
健一は、次々と人々が消えていく様をただ眺めるだけで、何もできなかった。

ある晩、静まり返った茶屋で、健一はひとりお茶を淹れながら、再び古茶樹の声を思い出す。
もしかしたら、彼にできることがあるかもしれない、と自分を奮い立たせた。
最後の一杯を淹れて、そのお茶を飲み干し、心の奥に秘めた声に従い、古茶樹の元へ向かう決心をした。

月明かりの中、古茶樹は静かに立っていた。
健一は、感謝の意を表しながら、最後の思念を樹に託けるように願った。
「もう私を、誰も消さないでほしい。」その瞬間、樹がざわめく音が聞こえたように感じた。
彼はその声を受け入れ、手のひらを古茶樹に置いた。

しかし、健一の体はどんどん薄くなり、最終的に彼はその場から消え去っていった。
身を捨てた彼が心を込めて作ったお茶は、村に残されたが、それを口にした者たちもまた、知らず知らずに身体が消えゆく運命を背負ってしまったのだった。

その後、この村は茶屋とともに忘れ去られ、村人たちの記憶の中からも消え去った。
時折、山の奥で風に乗るように、健一の声が聞こえてくることがある。
「もう、戻れない…」と。
消えたお茶の谷には、今も誰も訪れないようになった。

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