彼女の名前は真理。
高校に通う普通の少女だったが、心にどこか物足りなさを感じていた。
特に、周囲の友人たちが恋愛に夢中になる中、彼女だけがその輪から外れているような気がしていた。
ある秋の夕暮れ、真理は学校からの帰り道に不思議な小道を見つけた。
その小道は、普段は通らない道で、まるで誰かを待っているように静まり返っていた。
根っこや石が不規則に並んだその道を歩くうちに、彼女はふと気づいた。
道の先には、その小道の終わりにある古びた公園が広がっていた。
公園の中央には一本の大きな桜の木が立っており、色づいた葉が風に揺れていた。
真理は、その木の下に腰を下ろした。
落ち葉が積もる下で、彼女は周囲の静けさに心を奪われていた。
それまで味わったことのない静寂の中で、何かが彼女の心の奥深くに触れるかのようだった。
その時、突然、不気味な風が吹き荒れ、葉が舞い上がった。
その瞬間、真理の目の前に一人の少年が現れた。
彼の名前は響。
彼が公園に現れた理由は、ただの偶然ではなく、その場に吸い寄せられるかのように現れたのだった。
彼は少し冷たい空気に包まれたような印象を与え、しかし同時に温かみを持つ雰囲気を纏っていた。
「こんにちは、君もこの公園が好きなの?」響は、少し照れくさそうに真理に話しかけた。
真理は驚きながらも、その瞬間、心の中に温かい何かが芽生えた。
彼女は響に惹かれる自分を感じながら、会話を続けた。
日が沈みかけ、薄暗くなっていく公園で、彼らの会話は弾んでいった。
共通の趣味や思い出など、初対面とは思えないほどの親しさが広がっていく。
そこに流れる時間は、真理が求めていた「愛」の形だった。
しかし、不意に真理が気づくと、響の姿はどこかぼやけてきていた。
「おかしい、どうして?」不安が彼女の心を占めた。
響に手を伸ばすが、彼の存在が徐々に薄れていく。
真理は、心の中の愛が重くなるように感じ、自然と涙が溢れた。
「ねぇ、響。私、あなたに会えてよかった。これからも一緒にいてほしい。」真理は叫んだ。
しかし、響の笑顔は更に遠くなり、彼女の思いは空に吸い込まれてしまうようだった。
その瞬間、彼女の背後から強い風が吹き、真理の体を引き裂くような感覚がした。
次の瞬間、彼女の目の前には、空虚な桜の木だけが残っていた。
響の姿は消え、彼女の心の中から愛の温もりも失われてしまった。
真理はパニックに陥り、何が起きたのか分からず、周囲を見回した。
しかし、彼女には愛の対象が存在しない世界が広がっていた。
それは、まるで響が彼女の心の中に生きている幻影であるかのようだった。
彼女はただ一人、その公園に取り残され、温もりが消えてしまった。
次第に街の灯りが遠くに見え、夜が訪れた。
真理は桜の木の下に座り込み、涙を流し続けた。
響との出会いがあったからこそ、彼女の心はその虚無感に支配されてしまった。
愛はその場に留まることなく、彼女の心の中に深い傷として残ってしまった。
時が経つにつれて、真理は何度もその公園に訪れたが、響の姿は決して現れなかった。
そして彼女の心には、響への愛が永遠に響き続けるように、今もその声が消えないのだった。
愛しさは彼女の中に落ち、暗闇の中で永遠に彷徨っていたのである。