ある晩、空がどんよりと曇り、冷たい雨が降り続いていた。
そうした深い闇の中、静かな住宅街の一角に佇む「屋」という名の古びた家があった。
住人は長年この家に住んでいた老人、村田さんだけだった。
しかし、数か月前、村田さんは突然姿を消してしまった。
その後、この家には誰も近づかなくなった。
ただ、一つだけ噂が立っていた。
「村田さんの霊が屋の中で何かを探している」と。
町の人々は誰もその家に近づくことはなく、孤独なこの家はいつしか存在を忘れられてしまった。
しかし、若い大学生の佐藤は、友人からのちょっとした冗談のつもりでその家に行くことを決めた。
「村田さんがどうしても何かを探しているなら、俺がその正体を解き明かしてやる」と、彼は友人たちに言い残し、夜の闇の中に足を踏み入れた。
ドアは古びた音をたてて開き、佐藤は薄暗い屋内に入った。
重たい空気が漂い、ほんのりとした湿気が感じられた。
彼は懐中電灯を手に取り、一歩一歩進んで行く。
壁には剥がれた壁紙が垂れ下がり、床はきしむ音を立てる。
思わず背筋がゾッとする。
しかし彼の好奇心はそれを上回っていた。
不気味な静けさの中、佐藤はふと目を引くものを見つけた。
壁に掛けられた古い写真だ。
その写真には若い村田さんが映っていたが、彼の周りには無数の白い影が漂っていた。
佐藤は恐怖を感じつつ、さらに進んだ。
すると、次第にその影が彼の周りにも形成されていくのを感じる。
思わず後ろを振り返ると、そこには誰もいない。
彼は冷静さを取り戻そうとしたが、足が進まない。
その時、突然、背後で「助けて」という低い声が聞こえた。
振り返ると、白い影が一つ、こちらを見ていた。
それは村田さんの姿だった。
彼は涙を流しながら、自らの亡霊が何かを求めていることが分かった。
「私はここにいる」と呟いた。
その瞬間、周囲の空気が一変した。
影たちは彼の周りを取り囲むように近づいてくる。
佐藤は逃げ出そうとしたが、足が動かない。
その時、村田さんの霊が彼に向かって言った。
「復讐を果たすのだ。私を忘れないで。」言葉を残すと、彼は消えてしまった。
その瞬間、佐藤の意識は闇に包まれた。
不思議と、彼は次の瞬間、「屋」の外に立っていた。
翌日、友人たちは佐藤を心配して家に向かったが、彼は姿を現さなかった。
やがて、屋は再び話題に上ることはなく、その存在は薄れていった。
しかし、数年後のある夜、またもや雨が降る中、別の若者がその家の前を通り過ぎると、館内からかすかな声が響いてきた。
「助けて…」と。
彼は立ち止まり、すぐには逃げなかった。
彼もまた、「屋」の秘密に引き寄せられていたのだ。