「アキラ」という名の若者が、小さな村の入口に立つ古びた神社に足を運んだ。
彼は、最近村で囁かれている話を聞きつけ、興味を抱いて、真実を確かめるためにここに来たのだ。
その噂は、「木」と「消えた人々」の間に何か不思議な関係があるというものであった。
村の古い文献によると、神社の裏手には、特別な力を持つ一際大きな木が存在する。
何百年もの間、村の人々はその木を尊崇してきたが、最近になり、近くの人々が次々と姿を消しているという不気味な現象が起こっていた。
村の者たちはこぞって、木に触れたり近づいたりすることを禁じ、恐れを抱いていた。
しかしアキラは好奇心からその真相を知りたかった。
霧が漂う夕方、アキラは他の村人が避ける神社の裏手に足を進めた。
木はそこに立っていた。
光を遮るほどに大きく、濃い緑の葉を茂らせるその姿は、圧倒的な存在感を放っていた。
アキラはゆっくりと近づき、その木の幹に手を当てた。
不思議な冷たさが手のひらを通じて彼に伝わった。
彼は、その瞬間、何かが彼を引き寄せる感覚を覚えた。
しばらくして、彼が木に浸るように触れていると、周囲の空気が変わり始めた。
暗くなった空から一筋の雷鳴が響き、風が急に強まった。
アキラは自らの興奮を振り払おうとしたが、次第に意識が朦朧としてくる。
彼の視界には、木の周りに現れた人々の姿が映し出された。
過去に失われた村人たちだった。
彼は何とか立ち直り、その場から離れようとしたが、足が動かない。
彼はその瞬間、村人たちが一様に彼を見つめていることに気づいた。
びっくりした彼は、何が起こっているのか理解できなかった。
彼の目に映るのは、かつて消えた人々の手を木が吸い込み、彼らが無残に消えた姿だった。
「助けてくれ…」と声を上げる一人の男性がいた。
その声音はさまざまな感情に満ちた、痛々しいまでの響きがあった。
アキラは恐怖を感じつつも、勇気を振り絞って聞いた。
「君たちは、何が起こったのか?」
男性はゆっくりと説明を始めた。
「この木は、実は私たちの命を吸い取っている。私たちの悲しみや後悔が、木に宿る力を強くしてしまった。私たちは、無意識にそれに引き寄せられてしまったのだ。」
衝撃の事実を耳にしたアキラは、どうにかしてこの現象を止めねばならないと決意した。
しかし、どうすればよいか全く思いつかない。
周囲の村人たちは次第に曇り、彼の視界から消えていった。
さらに、木は彼に何かを訴えかけているようにも感じた。
アキラは思いつく限りの方法を試みながら、恐怖と闘った。
どれだけ友人や家族の名前を呼んでも、木からの圧力に抗いきれず、次第に力が奪われていく。
しかし彼は、自分の感情に逆らい、自身の命を木に捧げることを決心した。
その思いが、何かを変えてくれるのではないかと。
すると突然、彼の手が木の幹を強く握りしめた。
周囲の空気が変わり、激しい雷鳴が響き、空から白い光が降り注いできた。
アキラは叫び、全ての命がこの場に集まるような感覚を抱きながら木に向かって必死に叫んだ。
「どうか、彼らを解放してくれ!」
その瞬間、木が激しく震え、切り裂かれるような音と共に、村人たちの姿が次々と浮かび上がり、彼の周りから解き放たれていくのが見えた。
彼らは明るい表情に変わり、ほんのりと薄明かりが差し込む空へと昇っていった。
木は静まり返り、やがてその首を落とすように頭を垂れた。
アキラは自らの意志と、消えた人々の思いが一つになった瞬間を感じた。
彼はその場に崩れ落ち、村人たちの笑顔を記憶の中に刻むのだった。
その後、アキラが神社を去った時、そこにはもはや消える者も、何かを吸い取る木も存在しなかった。
村は静かに、しかし確実に、新たな未来に向かって進み始めるのだった。