彼の名前は佐藤明。
彼は、地方の小さな町で教師をしていた。
穏やかな日常を送る彼だったが、ある日、同僚の談から聞いた不気味な話が、彼の心に陰を落とすことになる。
その町の外れには、かつて多くの人々が集まっていたという古びた公民館がある。
しかし、最近では訪れる者はほとんどなく、町の人々はその存在を忘れてしまったかのようだった。
談はその公民館について、「そこには呪われた歴史がある」と語った。
「昔、ここで無数の人が消えたんだ。その原因は、ある呪いが関係していると言われている。明、知っているか? 公民館がある場所に、昔は祭りがあって、それに参加した人々が全員姿を消してしまったという話を。」
明は、談の話に興味を持ったが、人々の噂や伝説に惑わされることはないと思っていた。
しかし、なんとなく気になった彼は、休日に公民館を訪れてみることにした。
公民館の周りは静まり返り、周囲の木々がうっそうと生い茂っていた。
中に入ると、薄暗い室内に忘れ去られた家具が置かれ、まるで時間が止まったような景色が広がっていた。
彼は確信を持って、何も起こることはないと考えていたが、その時、背後から低いうめき声が聞こえた。
驚いて振り返ると、誰もいない。
しかし、何かの気配は感じられた。
不気味な気持ちを抱きつつ、彼は部屋の中を歩き回った。
すると、壁に描かれた奇妙な模様が彼の目に飛び込んできた。
それは、祭りの図柄のようでもあり、サキュバスの絵のようでもあった。
何かを象徴するような、不気味な警告が込められているように感じた。
「この模様が、呪いの真実か?」明は自問自答する。
忘れられた歴史を掘り起こすことが、実際には禁忌であるのかもしれない。
ただ、その時、急に周囲が明るくなった。
思わず目を閉じる明。
光が収まると、彼は見知らぬ異空間に立っていた。
そこには、何人かの男女が立っており、周りには祭りの賑わいがあった。
彼はその雰囲気に圧倒され、混乱して目を閉じた。
再び、元の公民館に戻っていることに気づいたが、今は人々の姿が見えなかった。
「消えた」という言葉が、頭の中で響いていた。
彼は急いで公民館を後にしたが、風に乗って耳に入ってくる人々の声が、次第に鮮明になっていった。
その声は、壊れた祭囃子のようだ。
彼を呼ぶ合唱。
明は恐怖に駆られ、走った。
しかし、視界が呪いのように変わり始めた。
彼の周りの景色が歪み、彼は再びあの異空間に引き戻されてしまった。
今度はそこにいた人物の一人の目が、彼を貪るように見つめていた。
その瞬間、彼の心に何か冷たい気配が走る。
「この呪いから逃れられないのか?」彼は必死に逃げ惑い、叫び声を上げたが、彼の声もまた、そこに吸い込まれていく。
公民館に戻った明は、自分が何かに呪われてしまったかのように感じた。
いつの間にか彼の身の回りには、彼を待ちわびる影のような存在が現れた。
町に戻ると、知らない間に自分の姿もまた、人々の視界から消えていた。
誰も彼を認識せず、まるで彼がこの世に存在しないかのようだった。
それ以来、明の姿は町の伝説として語られることになった。
「かつてここにいた教師、佐藤明」と。
その後、町から公民館は消え、記憶の片隅に埋もれていくこととなった。
しかし、今もなお、あの空間には彼の呪われた呼び声が、眠ることなく囁き続けている。