静かな郊外にある人々が住まう敷という地区。
そこには古びた神社があり、その神社の一角に、長い間誰も近づかないとされる「忘れ物」の場所があった。
地方の人々はその場所を避け、近づくことはもちろん、話題にすることすら忌避していた。
それは、很多済みの境界を越えてしまった者たちの、消えた念にまつわる恐ろしい噂が囁かれていたからだった。
主人公である佐藤和也は、その地区に住む普通の青年だった。
彼は小さい頃から不思議な現象に興味があり、特にこの敷の神社にまつわる噂に心を惹かれていた。
ある日、彼は友人の田中健二と共に、その神社に行くことを決めた。
「あんなとこ、面白いことがあるに決まってる!」と盛り上がっていた。
神社に到着し、薄暗い境内に足を踏み入れる。
鳥居をくぐり抜けると、地面には雑草が生い茂り、木々の間から差し込む日差しが神秘的な雰囲気を醸し出していた。
和也は神社の奥にある「忘れ物」の場所に行くことを提案した。
「何もないだろう、ちょっと見に行こうよ」と健二も同意する。
二人がその場所に近づくと、何かが不気味な空気を漂わせていた。
周囲は無音で、時折木の葉がかすかに揺れる音だけが聞こえる。
和也は思わず背筋が寒くなりながらも、勇気を振り絞って草を掻き分ける。
すると、地面に埋もれたような錆びた何かが見えた。
「これ、なんだろう?」と健二が指さすと、和也はそれを見る。
そこには古い物のような石の札があった。
「多分、昔の人が何かを供えてたんじゃないかな」と和也は言った。
その瞬間、和也の中に不思議な念が宿る。
どこからともなく自分の心の奥深くに触れるような感覚がし、彼はその瞬間、何か大切なことを思い出した。
「私が本当に忘れているものはなんだ?」と和也は独り言をつぶやき、目を閉じた。
すると、彼の脳裏に過去の記憶が断片的に甦る。
幼い頃、彼は友人と遊んでいた頃の笑い声や、楽しげな風景が寄せては返す。
しかし、その影に潜む、もう一つの記憶がふと顔を出した。
— 一緒にいたはずの、あの子の顔。
その子は彼の大切な友人で、何年も前に急に姿を消してしまった。
彼の心には、その喪失感がいつまでも残っており、暗い影のように彼の日常に付きまとっていた。
忘れられたはずの思い出が鮮明に蘇り、和也は無意識に叫んだ。
「あの子、どこにいるんだ?」
健二が和也を揺さぶり、「どうしたの?大丈夫か?」と問いかける。
和也はその声に我に返り、周囲を見渡した。
しかし、彼の心の奥に、不安感がつきまとい続けていた。
「誰が、私を忘れさせたのか?」と彼は心の中で訴えた。
神社を離れようとするが、ふと気づくと、健二の姿が見えなくなっていた。
和也は恐怖に駆られる。
「健二!どこにいる!」と叫んだが、どこからも返事は返ってこない。
不気味な静けさが彼を包み込む。
彼は再び札の方へ目を向けた。
すると、札がほんの少し光を帯び始める。
「お前も消えたくないと思っているのか?」と和也は自問する。
「この思いを抱えたまま、どうすればいいのか分からない」と心が叫んでいた。
次の瞬間、彼はまた夢の中に引き込まれる。
次々に訪れる断片的な記憶が鮮明に脳裏をよぎり、彼はその中で見知らぬ少女の姿を見つけた。
過去に失った友人の声が、和也の耳元に響く。
「思い出して、私があなたの中に消えているなんて、忘れないで…」
突然、彼の視界が歪んでいく。
何かが彼の中から抜け出そうとしていた。
それは忘れていた忌まわしい想い、そして誰かを思う気持ちだった。
和也はその思念の波に飲み込まれ、次第に意識が薄れていく。
気がつくと、彼は神社の敷地から遠く離れた場所に立っていた。
周囲は見慣れた風景だが、心にはぽっかりと穴が空いたようで、彼は過去の何かを再度失ってしまった気がした。
彼の記憶の一部が、またしても消え去ったのだ。
振り返ると、神社はただの古びた場所に過ぎなかった。
しかし、彼の中にはいつまでもその影響が残り、誰もが抱える心の奥に潜む念の重さが、新たな恐怖として彼の心に宿るのだった。