陽は、友人たちと一緒に心霊スポットとして有名な廃墟に探索に行くことにした。
彼の友達である真は、特に心霊現象に興味を示しており、前からこの場所での体験談を聞いていた。
そのため、彼らは仲間たちと共に、夜の帳が下りた頃にその廃墟に足を運ぶことに決めた。
廃墟は町外れにあり、数年で草が生い茂り、いやな雰囲気を漂わせていた。
彼らは懐中電灯を持って、恐怖心を抱えながら中に入っていった。
暗がりの中、彼らはかつての栄光を失った建物の残骸を探索し、徐々に恐れながらも期待感に胸を躍らせた。
「ここで真が言ってたのは、消えた人の影が見えるっていうやつだよな」と陽が言った。
真は頷きながら、どこかはしゃいでいる様子だった。
「そう、特にここで亡くなった人の影が現れると言われているらしい。だから、注意して見ることが大事だよ」
どんどん奥に進む彼らは、一つの大きな部屋にたどり着いた。
そこには窓が割れ、薄暗い光が差し込んでいた。
その瞬間、陽は何かを感じた。
視界の端に、何かの影がちらりと動いた気がした。
思わず振り返っても、そこには何もなかった。
「気のせいだろう」と陽は自分に言い聞かせた。
しかし、真はどこか興奮気味で、「もう少し居ようぜ。もしかしたら、何かが見えるかもしれない」と言った。
陽は不安を感じながらも、友人に促される形でその場に留まることにした。
しばらく静寂が流れた後、彼らの周囲にひんやりとした空気が漂い始めた。
陽は肌に感じる寒さにゾクリとしたが、真はじっと動かずに何かを見つめている様子だった。
「見て、あの影…」と真がつぶやく。
陽はその方向を見た。
彼の目に映ったのは、確かに人の形をした影だった。
だが、その影は寒々しい空気の中で黒く、不気味にゆらゆらと揺れていた。
「本当にいるのか…?」心臓がドキドキし始め、恐怖が全身を包む。
「もしかして、あれが消えた人の影なんじゃない?」真の声は興奮に満ちていたが、陽は不安でいっぱいだった。
しかし、無視できないその影に引き寄せられるように、陽は意を決して一歩前に出た。
その瞬間、影は急速にこちらに向かって近づいてきた。
陽は絡みつくような恐怖を感じ、思わず後退した。
「待て! 陽、逃げよう!」真が叫び、仲間たちもパニックに陥った。
陽はその場から逃げ出そうとしたが、影がまるで彼を捕まえようとするかのように伸びてくる。
彼は必死にその場を離れようとしたが、何かに引き寄せられる感覚があった。
「消えた人の影…だと…」陽は心の中で恐れが膨らんでいくのを感じた。
影は彼の足元で渦巻き、まるで彼をどこかへ連れ去ろうとしているかのようだった。
「真!走れ!」陽は叫び声を上げた。
その瞬間、周囲の温度が急に下がり、彼の意識が薄れていく感覚がした。
友人たちと共に脱出しようとしたが、影の力が強く、陽はどんどん消えていくような気がした。
その場に残っていたのは、彼の仲間たちと、消えゆく彼の影の声だけだった。
「助けて…助けて…」その声は、薄れゆくようにこだました。
陽は彼自身の存在が消えてしまうことを感じながら、ただ友人たちの元へ戻ろうと必死だった。
闇の中、かすかに光が差し込むように思えた瞬間、彼は目を覚ました。
周囲には誰もおらず、ただ静寂だけが広がっていた。
彼は立ち上がり、周囲を見渡した。
果たして、友人たちはどうなったのか。
彼がいた場所は、もうあの廃墟ではなかった。
だが、心の奥底に残った影は消えることはなく、いつしか彼自身がその影のようになってしまっているかのようだった。
陽は、自らが見たことを思い出し、決して忘れることのできない体験を胸に抱えながら、どこか見知らぬ場所で立ち尽くしていた。