彼の名前は大輔。
まだ小さな童(わかもの)で、村の外れにある古びた神社の近くに住んでいた。
夏のある日、大輔は友達と神社の裏手にある森の中で遊んでいた。
森はいつも不気味な雰囲気を漂わせていたが、子供たちはその神秘的な場所に魅了され、遊び場として利用していた。
その日、大輔たちは神社の奥にひっそりとたたずむ朽ちかけた石祠を見つけた。
石祠の表面は苔に覆われ、まるで歴史を物語るかのようだった。
「ここ、何かいるのかな?」と、一人の友達が不安そうに言った。
大輔は笑いながら「そんなわけないよ、行ってみよう!」と誘った。
仲間たちと一緒に、彼は石祠に近づくことにした。
祠の周りには低くうねる草木が生い茂り、暗く影を落としていた。
大輔が手を伸ばし、その苔むした石の表面を触れた瞬間、冷たい感覚が指先を走った。
次の瞬間、彼の目の前で草木がざわめき、まるで何かが意志を持っているかのように揺れ始めた。
友達たちは傍で怯え、ざわざわとした声を上げた。
「なんかおかしいよ、もう帰ろうよ!」大輔は軽い気持ちで答えた。
「平気、なんにもないって。」
彼は一瞬の興奮に促され、もう一度石祠に触れようとした。
しかし、そのとき、背後から誰かの声が聞こえた。
「帰るんだ、早く。」
その声はかすかに響き、しかも印象深い何かが取り憑いているように大輔の心に迫った。
振り返ると、そこには彼の友達を守るように小さい影が立っていたが、その顔は消えていて何も見えなかった。
「大輔、早く帰ろう!」友達の一人が叫んだが、彼はその影にも気を取られ、ただ立ち尽くしていた。
その後、友達たちは必死に神社を離れようとしていたが、大輔だけは意志が固まらず、何かに引き寄せられているかのように動けなかった。
気づけば、周りの景色が急に不気味な様相を呈し始めた。
森はまるで彼を拒絶するかのように崩れ落ちていく。
彼はその場から消え去った。
数日後、村の中で大輔の行方が分からなくなったことが話題になった。
村人たちは大輔の消息を心配し、神社周辺を捜索したが、彼はまるで何もなかったかのように消えてしまった。
その時、村の伝説が再び囁かれ始めた。
「神社の祠には、無垢な少年が犠牲になることがある」と。
その言葉は、静寂の中で不気味に響いていた。
友達たちは後悔の念を抱えながら、あの日の出来事を語り始めた。
「大輔だけが消えたんだ…」彼らはその場所には近づくことができなくなった。
心の奥底に潜む恐れが、彼らを神社から遠ざけていた。
日が経つにつれ、大輔の存在は村の人々の記憶から消え去ったが、森の中に残された石祠は、誰も近づかない場所として静かに佇んでいた。
その祠は、いまだに無垢な心を狙い続けているという噂が立ち続けた。
大輔の痛ましい運命は、忘れ去られたわけではなかった。
彼はただ、神社の陰に隠れたまま、静かに無限の時を過ごしているのかもしれない。