「消えた少女の囁き」

まひるが、静かな町の片隅に佇む古びたアパート。
その一室に住むのは、大学生の俊介だった。
彼は、引っ越してきたばかりで、まだ周辺の散策もしていない。
ある晩、友人に誘われてパーティーに出かけたが、あまり楽しめなかった。
帰宅する途中、アパートの廊下を歩く彼の耳に、不気味な音が響き渡った。
それは、部屋の奥から聞こえるかすかなすすり泣きだった。

俊介は不審に思い、音のする方へ足を運ぶことにした。
ドアの前に立ち、その音量が小さくなるのを待った。
誰かが中で泣いているのだろうか。
心配になった俊介は、意を決してドアをノックする。
「大丈夫ですか?」と呼びかけたが、返事はなかった。
ただ、すすり泣きだけが徐々に大きくなる。
俊介はドアを開け、内部を覗くことにした。

扉を開けると、目の前には誰もいない部屋が広がっていた。
しかし、窓際に置かれた子どもの玩具が勝手に動き出し、部屋の中央に向かって転がっていくのを見て、俊介は背筋に寒気が走った。
彼は急に恐怖心に駆られ、足を引く。
しかし、何かが彼をその場に留めさせた。
彼はその瞬間、不安を感じながらも奥に進むことに決めた。

部屋の中は薄暗く、埃っぽい空気が漂っていた。
俊介が子どもの玩具に近づこうとしたとき、依然としてすすり泣きの音は続いていたが、その音は突然、彼の後ろから聞こえた。
振り向くと、そこには小さな女の子が立っていた。

彼女は白いワンピースを着ており、髪の毛はボサボサで顔も薄暗くてはっきりとは見えなかった。
「助けて…」彼女は小声で言った。
俊介は驚き、何を言っていいのかわからなかった。
「なんで泣いているの?」と聞くと、彼女はただ首を振るだけだった。

その瞬間、部屋の空間が揺らぎ始め、明らかに不穏な気配を感じた。
俊介は驚き、部屋を出ようとしたが、ドアが自動的に閉じてしまった。
外からの音が消え、静寂が広がる。
俊介は恐怖に駆られ、目の前の女の子を見つめ続けた。
彼女の表情にはどこか哀しみが漂っていた。

「どうすればいいの?」俊介は焦りながら尋ねた。
女の子は彼の質問には答えず、ただその場にしゃがみ込んだ。
虚空を見つめ、時折顔をしかめたりもする。
俊介はそのまま彼女を見守りながら、何が起きるのかを待った。

その時、部屋の壁が微かに染まったように見え、薄い影が現れた。
影は女の子の元へと近づいていく。
俊介は恐怖を感じ、思わず大声を上げた。
「やめろ!」叫んだが、声は虚しく響くだけだった。
影が女の子を包み込むと、彼女は悲鳴を上げるように泣き出した。

俊介はどうすることもできず、暗闇の中で彼女の叫び声に耳を澄ませていた。
彼女の姿が徐々に消えかけ、影とともに吸い込まれていく。
最後の瞬間、彼女は「私を忘れないで…」という言葉を残して消えてしまった。

その後、俊介は部屋を抜け出し外へ逃げた。
彼は何が起きたのか理解できなかったが、心に深い傷を抱えることになった。
日々、彼女の存在が夢に現れ、彼の心を重くした。
彼の目には、消えた女の子の姿が常に映るようになっていた。

そんな日々が続く中、ある日、彼はアパートの図書館で古い本を見つけた。
不思議なことに、その本には彼女のことが書かれていた。
過去に起きた事故や町の悲しい出来事が記されており、彼女はその悲劇の犠牲者であることがわかった。
彼女はこの部屋を彷徨っているのだと。

俊介は彼女のためにできることをしようと決意した。
それは彼女の名前を忘れず、彼女の存在を語り継ぐこと。
そして町の人々に彼女のことを知ってもらうことだった。
彼はその後、周囲の人々に彼女の話を伝え続けた。
彼の口から語られることで、女の子の落ち着かない魂が少しでも安らげることを願った。
また、俊介自身も彼女を通して成長し、彼女のことを思い出す限り、彼は決して彼女を忘れなかった。

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