ある街の片隅に、静かに佇む「謎の公園」があった。
周囲の雑踏とは裏腹に、公園はひっそりとしていて、誰もがその存在を忘れがちだった。
公園には古い鳥籠があり、いつも小鳥たちが中に収められていた。
しかし、ある日を境に、小鳥たちは忽然と姿を消してしまった。
佐藤健太は、この公園の近くに住んでいた。
いつも通りの散歩がてら、公園のベンチに腰を下ろしていた彼は、不思議と心を惹かれるものを感じていた。
公園は静かだったが、どこか異様な空気が流れていた。
その日は午後の空が曇り、薄暗く、微かに風が吹いていた。
いつもは小鳥たちのさえずりが響いていたが、今はその声が聞こえなかった。
健太は、鳥籠を見つめた。
中は空っぽになっており、まるで小鳥たちがどこかへ消えたかのようだった。
健太は少し不安になりながらも、周囲を見回した。
しかし、公園には誰もいない。
急に不気味な感覚が押し寄せてきたが、その時、彼の目にふと映ったものがあった。
遠くの木の上に、何か黒い影が止まっている。
何羽もの鳥が、じっと健太を見下ろしていた。
彼は好奇心を抑えられず、近づいていくことにした。
近づくと、その鳥たちの目が異様に輝いていて、その瞬間、健太は何か違和感を感じた。
まるで、その視線の中に、彼の内面を探るような冷たい感情があったからだ。
「どうして、ここにいるんだ?」健太は思わずつぶやいた。
すると、その中の一羽がゆっくりと降りてきて、彼の目の前に立っていた。
体が小さく、羽の色は漆黒。
同じ黒の瞳を持つその鳥は、まるで彼の存在を意識しているかのように、静かに見つめていた。
「君たちはどうして、消えてしまったのか?」健太の心の中に疑問が湧き起こる。
ただ、その魚のような冷たい目は、何も答えず、ただ彼を見つめ続けた。
健太は身動きが取れず、その場に立ち尽くすしかなかった。
その夜、健太は夢を見た。
夢の中で彼は、公園に立っていた。
そして、消えたはずの小鳥たちが、再び彼の周りに舞い降りてくる。
まるで彼を歓迎しているかのようだ。
しかし、その中の一羽が近づき、「私たちを忘れないで」と囁いた。
突然、健太の視界が暗くなり、白い霧が立ち込めてきた。
彼は急に恐怖を覚え、目を覚ました。
翌朝、健太は公園を訪れた。
やはり小鳥たちはいなかった。
そして、鳥籠の中には、何かが書かれていた。
「消えてはいけない、消えた者たちの声が私たちの中に宿っている。」その文字は、鳥の羽で描かれているようだった。
健太は、何か重い責任を感じた。
彼はその公園に何度も通うことにした。
小鳥たちの声を取り戻すために。
日々、健太は鳥籠の前で献花をし、小鳥たちの思いを心に留めるように努めた。
すると、彼は不思議なことに気づいた。
毎晩、夢の中で小鳥たちと共に飛び回る感覚が、だんだんと強くなってきた。
そしてある日、彼は夢の中で「私たちを忘れないで」という声を聞いた瞬間、目が醒めた。
彼は再び公園に足を運び、今度は「あなたたちを思い出す」と心の中で誓った。
その瞬間、鳥籠の中に小鳥たちの姿が現れ、彼に微笑んでいるかのように見えた。
しかし、彼は気づかなかった。
彼自身がその場にいても、実際には存在しないことに。
彼の姿が消え、徐々に彼の記憶が消え去っていくのだった。
数年後、街の人々は謎の公園の鳥籠を見かけなくなり、誰もその存在を思い出さないようになった。
健太の姿も消え、公園はすっかり忘れ去られたのだった。
消えるべきものが消え、そして新たに訪れる者もいなくなった街の一角には、ただ静けさだけが残っていた。