「消えた家族の行く先」

彼の名は創。
大学の授業を終えた彼は、自宅へと帰るために古い屋敷の前を通り過ぎることが日課となっていた。
その屋にまつわる噂は、彼の好奇心を掻き立てた。
言い伝えによれば、その屋はかつて裕福な家族が住んでいたが、ある日、彼らは忽然と姿を消したという。
彼は、彼らがどこへ行ったのか、何があったのかを知りたいという思いから、ふとした瞬間にその屋敷の門をくぐる決意をした。

屋敷の扉は意外にも簡単に開いた。
中に入ると、辺りは暗く、埃っぽい空気が漂っていた。
世間から遮断されたような空間で、時間が止まっているかのように感じた。
創は少し不安を覚えつつも、心の中の探究心が勝り、静かに屋敷の中を探索し始める。

一階の廊下を進むと、古びた家具が散らばり、壁には家族の肖像画が掛かっていた。
その目に留まったのは、ひときわ生き生きとした笑顔の少年の絵だった。
何かを訴えるように彼を見つめているその視線に、創は思わず心を奪われる。
次の瞬間、彼の背後で何かが動いた気配を感じた。
振り向くと、誰もいなかった。

少し不気味な気持ちを抑えながら、創は二階へと進む。
階段を上る音が静寂を破り、彼の鼓動が高まる。
二階の廊下もまた、朽ち果てた家具や影のようなものがごちゃごちゃと散らばっている。
遠くから微かに聞こえる音に導かれ、扉の一つを開けると、そこには一部屋の真ん中に立つ大きな鏡があった。

創は鏡に向かって近寄り、自分の姿を映し出した。
しかし、その瞬間、彼の後ろを何かが通り過ぎて行くのを感じた。
振り向くと、今度は確かに誰かがそこにいた。
その人影は微かに光り、姿を現さないまま、彼の視線の先へと消えていく。
恐怖と好奇心が交錯しながら、彼は恐る恐るその影を追いかけた。

影を追って階段を下りると、屋敷の奥へと続く小さな通路にたどり着く。
そこには先ほど見た家族の肖像画が並び、その中に少年の姿だけはなかった。
彼の不安をよそに、暖かな風が通り抜け、その風を感じた瞬間、少年の笑顔が浮かんだ気がした。

創は屋敷の中で、失われた家族の思いがまだ残っているのを感じ取り始めた。
どうして姿を消したのか、なぜ彼だけがここに残っているのか、疑問が尽きなかったが、何かが彼に後を託しているように思えた。
薄暗い中、その屋の最後の真実を見つけたいという衝動に駆られた。

すると、突然、耳元で「後…」というささやき声が聞こえた。
何かを思い出させるその声に従い、創は再び屋敷の奥へと進んだ。
そこには散らかっていた思い出の品々が執拗に並べられていて、その中の一つ、古いノートを手に取ると、家族の記録が描かれていた。
「私たちはここから行ってしまったが、忘れないでほしい。」

創はそのメッセージを胸に感じ、屋敷の出口へ向かう。
誰かに忘れ去られた場所には、苦しみとともに残された思いがある。
その瞬間、彼は自分がここにいる意味を理解し始めていた。
過去を背負った屋敷から何かを受け取った彼は、今後はその思いを背負い生きていこうと心に決めた。
彼は屋敷を後にし、家族の思いを伝えるための新たな一歩を踏み出したのだった。

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