静かな山間の集落、「新井村」は、昔から言い伝えられる怪異の存在によって、人々を恐れさせてきた。
村の周辺には、不気味な森が広がり、その中にはどこか異質な空気が漂っていた。
村人たちはその森に近寄ることを避け、誰ひとりとしてその中に足を踏み入れる者はいなかった。
そんな村に、「遭」という名の青年がいた。
彼は小さな集落で育ちながらも、風変わりな性格を持ち、村の禁忌に挑戦しようと常に探求心を抱いていた。
ある晩、彼は夢を見た。
夢の中で、彼は森の奥深くに導かれ、そこで異様な気を感じ取った。
どこか引き寄せられるような心地よさがあったが、同時に何か恐ろしいものの気配が迫っているのを感じたのだ。
目が覚めた彼は、「この気を感じたい」と強く願った。
彼は村の者たちが恐れる「森の中の何か」を探求することを決意し、その夜、誰にも知らせずに森の奥へと足を踏み入れた。
月明かりが差し込む中、彼は静寂の中に潜む気の存在を追い求め、進んでいった。
しばらく歩くと、周囲の空気が変わった。
気温が急に下がり、不快なほどの静けさが森を包み込む。
霧が立ち込め、木々はまるで生きているかのように揺れていた。
その瞬間、彼はポケットから取り出した懐中電灯の光が、何かの影を捉えた。
それは人の形をした影で、彼の意識の中に深くしみ込んでくる気を感じさせた。
その影は「消えろ」と囁いているように思えた。
遭は心の中で強烈な恐れを抱きそうになりながらも、興味の方が勝った。
影が近づくと、彼は目を奪われた。
それは過去に村で失われた子供たちの姿だった。
村では数年前、謎の消失事件が続き、いなくなった子供の名を思い出した。
どうして彼らがここにいるのか、その理由を知りたいと思った。
影は淡い光を放って、彼に手を差し伸べた。
「私たちを助けて」と囁く声が聞こえる。
遭は一瞬戸惑ったが、その声音に軽く引き寄せられ、影に近づいていった。
しかし、彼が近づくと、急に影は消え始め、彼の周囲が暗くなり、恐ろしい気が彼を包み込んでいく。
心が急速に冷え込み、遭はその場から逃げ出そうとしたが、地面が彼の足を捉えるように絡み合った。
息苦しさが彼を襲い、彼は叫び声を上げたが、声が響かない。
視界が暗くなる中、彼は一つの思いに行き着いた。
「私も消えてしまうのか。」
最後の力を振り絞り、遭は必死に森を後にしようとした。
彼の手は花のついた枝に触れ、その瞬間、突然、森が静まり返った。
気が失われるような感覚の中、彼はひときわ強い光を感じた。
その光は、彼の導きだったのかもしれない。
しかし、それは逃げるためではなく、彼を呼び寄せていたのかもしれない。
それを承知しながらも、遭は自分の生を願った。
次の日、村に戻った彼の顔は蒼ざめていた。
あの森の気は確かに存在し、彼を試すかのように、過去の記憶を持つ無数の影が潜んでいる。
彼は村人たちにその体験を話したが、誰も彼を信じようとしなかった。
村の禁忌は保たれ、決して近寄ることは許されない。
遭は再び森に行くことを決意したが、今度はただ観察するために。
彼の中には新たな気づきと恐怖が芽生え、消えた過去を求める者たちがどのようにして村を照らすことができるのかを学び始めた。
静かに夜が訪れるにつれ、遭はその気を感じ続けながら、新しい物語が紡がれることを願っていた。