「消えた夏の友」

ある夏の夜、大学生の小林健太は友人たちと共に、地元の廃池にバーベキューに出かけることにした。
池は昔から地元の人々には忌み嫌われており、数々の不気味な噂が語り継がれていたが、彼にとってはただの遊び場だった。

「大丈夫だって、何も起こらないよ!」健太は友人たちに笑いかけながら、火を起こしていると、彼の友人の中で最も慎重な性格の佐藤が不安そうに言った。
「でも、あの池には昔、亡くなった人がいるって聞いたよ。本当に行くの?」佐藤の言葉に、他のメンバーも一瞬たじろいだが、バーベキューの楽しさが勝り、結局全員が池の近くで焼肉を楽しむことになった。

夜が深まるにつれて、周囲は静まりかえり、ただ薪のパチパチという音だけが響いていた。
すると、仲間の一人、田中が急に立ち上がり、「お前たち、池を見に行こうぜ!」と言った。
その提案に興味を惹かれた健太たちは、そのまま池へ向かうことにした。
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黒くて深い水面が月明かりに照らされ、まるで何かが潜んでいるかのように見えた。
水の奥底に誰かがいるのか、何か不気味な存在を感じさせる。
池の周りには、長い間人がくることもなく、草が茂り、ひっそりと静まり返っていた。

「やっぱりここ、なんか気持ち悪いな」と佐藤が呟くと、田中が笑いながら言った。
「お化けでも出てくるのか?笑」と冗談を言うが、場の空気はすっかり張り詰めていた。
すると、突然、誰も見えない方から不明な声が聞こえてきた。
「助けて…」

驚いた健太たちは一瞬立ち尽くした。
声の主が誰なのかわからぬまま、恐怖が心に染み込み始めた。
田中が無視を決め込み、「あれは風の音だよ」と言ったが、何かが彼らの中に溜まるように感じさせた。

「ちょっと邊りにいない?」友人の中の一人が指摘した。
水面を見ると、まるで誰かが水の中から見ているような黒い影が浮かんでいるのを見つけた。
健太が思わず声を上げた。
「あれ、何だ?」

彼らは一斉にその方向を向く。
その瞬間、黒い影が急に水から立ち上がり、人の形に変わった。
そこに現れたのは、かつて池で亡くなった少女と言われる幽霊だった。
彼女は水をすり抜けるように近づいてきて、冷たく沈んだ空気をまとっていた。
「助けて…私はずっと、ここにいるの…」

恐れを抱えたまま、健太たちは後ずさりし、恐怖のあまり言葉を失ってしまった。
幽霊は近づきながら、両手を差し出して彼らに訴えかける。
「私を…解放して…」彼女の声は悲痛で、絶望に満ちていた。
しかし誰も動けなかった。

健太と友人たちはどんどん後ろに下がり、結局、池を離れようと必死になった。
だが、その時、佐藤が足を滑らせて池の縁に転げ落ちてしまった。
彼の叫びが響く中、仲間たちが彼を引き上げようと必死になったが、その瞬間、幽霊は彼に向かって近づいてきた。

「一緒に来て…会いたいの…」幽霊が佐藤に耳元で囁いた瞬間、彼はふっと動きを止めた。
何かに魅了されたように、彼の視線は水面に固定され、次の瞬間、彼の体が水に吸い込まれるように沈んでいった。
悲鳴が潮のように広がり、仲間たちは恐れに駆られ、全員で逃げ出した。

それから数日後、友人たちは何が起こったのかを話し合った。
しかし、佐藤の行方がわからず、その思い出は彼らの心に一生残り続けることになった。
健太は池のことを考えると、誰かが自分を待っているような気がしてならなかった。

「助けて…」その声は今でも耳に残り、いつかまた誰かがあの池で会う日が来るのではないかと、不安と恐怖を抱き続けていた。

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