「消えた図書館員の呪縛」

静かな田舎町、地元の人々に愛され続けている小さな図書館があった。
その図書館は古びた木造の建物で、長い間誰も訪れない本棚が並んでいた。
そこで働くのは三人の図書館員たち、佐藤、一樹、そして美香だった。
彼らは本を愛し、静かな環境の中で穏やかに日々を過ごしていた。
しかし、図書館には一つの秘密があった。

図書館の裏手には、閉じられたままの小さな部屋が存在していた。
地元の言い伝えによると、その部屋には「魂を吸い取る本」が眠っているという。
興味をそそられた佐藤は、一樹と美香にその話をしたが、二人はその話を信じていなかった。

ある晩、図書館の閉館後、佐藤は一人でその部屋に忍び込んだ。
扉を開けると、ほこりをかぶった本棚があり、見慣れない本が静かに並んでいた。
一際目を引いたのは、漆黒の表紙を持つ一本の本だった。
それは「魂の書」と呼ばれ、多くの秘密が記されていると噂されていた。
好奇心に駆られた佐藤は、その本を手に取りページをめくった。

それに触れた瞬間、彼の頭の中に不思議な声が響いた。
「この本を読み続けることで、あなたの欲望が満たされる。しかし、代償がある。」佐藤はぞっとしたが、その誘惑に抗えなかった。
彼は本を読み進め、ページをめくるごとに感覚が研ぎ澄まされ、今まで感じたことのない快感が彼を包み込み、時間を忘れた。

数時間後、佐藤は本を読み終え、満足感と共に部屋を出ようとした。
しかし、彼の身体は鈍重で、まるで誰かに引き留められているかのようだった。
気づくと、周りはすっかり暗くなっており、図書館の外からは不気味な風の音が聞こえてきた。
急いで扉を開けようとしたが、ロックがかかっているかのように動かなかった。

そのとき、耳元で小さな声が囁いてきた。
「もうあなたは戻れない。あなたの中に私がいるから。」驚く佐藤。
自分の身体を支配している感覚に恐れを感じた。
彼は本の代償が何かを理解し始めたが、その時にはもう手遅れだった。

一樹と美香は、佐藤の所在を気にしながら待っていた。
彼は何が起こったのかを話すことなく、仕事を続けるようになった。
しかし、彼の表情はどこか陰鬱で、時折、呟くように「もう戻れない」と繰り返していた。
周りの人々は次第に彼の異変に気付き始めた。

日が経つにつれ、佐藤は明らかに変わっていった。
彼の周りには常に曇ったオーラが漂い、その姿は影を失ったかのように思えた。
ある晩、一樹と美香は彼に問いかけた。
「最近、何かあったのか?」佐藤は無表情で「何もない」と答えた。
しかし、その目には深い闇が宿っていた。

次の日、佐藤が図書館に現れなかった。
心配した一樹と美香は彼を探しに行くことにした。
しかし、彼の部屋に入ったとたん、奇妙な現象が起こった。
壁に無数の手形が浮かび上がり、押し寄せるように迫ってきた。
まるで彼の魂を吸い取ろうとするかのようだった。

恐怖に駆られた二人は急いで図書館を逃げ出した。
その後、佐藤は姿を消し、誰も彼の行方を知らなかった。
徐々に図書館は無人となり、訪れる人もいなくなった。
美香と一樹は、その出来事から何年も経った今でも、彼の言葉を忘れられない。
「もう戻れない」。
その言葉は静寂の中で何度も響き、今もどこかで彼の魂が漂っているのではないかと考える。
図書館は静まり返り、ただ過去の影と物語を抱え込む場所となっていった。

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