彼女の名前は浮。
大学生活も終盤を迎え、就職活動に追われる毎日を送っていた。
そんな中、彼女は友人からある噂を耳にする。
それは、街外れに存在するという「謎の空間」についてだった。
誰もその場所に近づこうとせず、行った人は二度と戻ってこないと言われていた。
好奇心が強い浮は、「どうせ無意味な噂だろう」と自分を奮い立たせながらも、その場所に行こうと決心した。
静かな夜、浮は懐中電灯を片手に、その空間を目指して歩き始めた。
街の明かりが薄れ、周囲は薄暗くなっていく。
翌日、友達と遊ぶ約束があったため、早めに帰るつもりだった。
しかし、徐々に彼女の中に期待感が広がり、心が躍った。
「こんな所に本当に謎の空間があるのだろうか?」そんな思いで彼女はその場所にたどり着いた。
そこには、不気味なほど静かな空間が広がっていた。
浮は少しの間、周囲を見回したが、ただの空き地にしか見えない。
彼女は「ここが噂の場所なのか」と思いながら、周囲を探ってみることにした。
何も見当たらず、がっかりした彼女は帰ろうとしたが、ふと足元にある奇妙な石に目を留めた。
その石は不思議な模様が刻まれており、かすかに光を放っていた。
興味をそそられた彼女は、そっとその石に触れてみた。
突然、周囲の空気が変わり、彼女の視界が歪んでいく。
なにかに引き寄せられるように、その場から動けなくなり、恐怖と混乱に包まれた。
すると、目の前に冷たい笑い声が響く。
「お前も消えてしまうのか?」その声は明らかに人間のものではなかった。
浮は恐怖で息を呑み、反射的に後退りしたが、その動きはまるで砂に埋もれるようだった。
何が起こっているのか理解できず、彼女は必死に周囲を見渡すが、もう目の前の景色はかすんでいた。
脱力感が彼女を襲い、気がつくと身動きが取れなくなっていた。
まるで命を吸い取られるかのように、彼女は「消えていく」感覚を感じた。
その恐ろしさに、何度も大声を出そうとしたが、声が出ない。
「私をここに閉じ込めないで!」彼女は心の中で叫んだが、声は届かず、周囲はますます静寂に包まれていく。
やがて、その空間からは他に誰もいなくなったかのように、全てが消えていった。
浮は恐怖と無力感でいっぱいになりながら、ただその場に立ち尽くしていた。
思考が混乱する中、視界のすみにかすかな影が見えた。
彼女はその影に気づいた瞬間、またもや心臓が跳ね上がった。
影は、浮の名前を呼ぶ。
それは彼女の過去の友人だった。
彼女は「どうしてここに?」と問いかけそうになったが、その声は出なかった。
影は静かに浮の元へ近づき、「消えていくことは選ばないで」と、悲しげな表情で見つめた。
浮はその言葉に勇気をもらおうとした。
もはやその恐怖に屈することはできない。
彼女は心の中で自分を奮い立たせ、自分を取り戻すための戦いを決意した。
どんなに恐ろしい状況でも、存在することを選ぶのだ。
自らの意志で、この空間から抜け出すことを誓った。
その瞬間、浮の意識がはっきりとしてきた。
周囲の景色が再び明るさを取り戻し、彼女はその石から離れることに成功した。
そして、彼女は必死に走り出した。
周囲が歪む感覚を感じたが、彼女の心には新たな力が宿っていた。
浮はそのまま何度も感情を込めて叫び続けた。
「私は消えない!私は生きる!」
やがて、彼女はその場所から抜け出し、明るい街の灯りが目の前に広がった。
思わず涙が溢れ出す。
友人たちとの約束を思い出し、再び生きることを実感した。
しかし、彼女の心の中には、あの空間での出来事が深く刻まれていた。
浮はその体験を決して忘れず、これからも「伝える者」として生きていくことを心に誓った。