「消えた友の影」

かつて栄えていた村の名残がひっそりと残る廃墟。
その村に興味を抱いた大学生の高橋は、友人の佐藤と共にその場所を訪れることにした。
村の中心に立つ古びた神社は、年月の経過とともに朽ち果て、草に覆われていた。
友人はその神社の周りを探索するのが好きで、高橋はついて行くしかなかった。

「どうせなら、ここで一晩過ごしてみようよ」と佐藤は言った。
高橋は少し不安を覚えたが、自然と話題にされるような廃墟の魅力には惹かれずにはいられなかった。
周囲の静けさが彼らを包み、夜が深まるにつれて暗闇が増していく。

2人は懐中電灯を持って神社の近くをうろついていたが、突然、佐藤が立ち止まった。
「おい、見てみろよ。ここに何かが埋まっている」と言いながら、彼は地面を掘り返し始めた。
高橋も興味を示し、懐中電灯の光を向けた。
すると、がれきの中から小さな木箱が見つかった。

「なんだこれ?」高橋が尋ねる。
「昔の神様のお供え物かも」と佐藤は弾むように言った。
箱を持ち上げると、急に風が強く吹きつけ、神社の周囲の空気が重くなるように感じた。
高橋は不安を覚えたが、佐藤は気にせず箱を開ける。

中には奇妙な飾り物や古びたお守りが入っていた。
好奇心に駆られた2人は、そこに手を伸ばそうとした瞬間、何かが彼らの視界を覆った。
暗闇から浮かび上がる影で、まるで人が立っているかのように見えた。
高橋は思わず後ずさり、佐藤の顔色が青ざめた。

「だ、誰かいるのか?」佐藤が声を震わせて言うと、何も答えは返ってこなかった。
ただ、静寂の中に、かすかな囁きが耳に入る。
「戻ってはならない…」それが、一瞬で彼らの心に恐怖を与えた。

2人は急いで木箱を地面に戻し、神社から離れようとした。
しかし、背後にあの不気味な影がついてきているような気配を感じ、足がすくむ。
高橋は必死に佐藤に言った。
「早く、ここを離れよう!」それでも彼らの足は進まなかった。

「戻ってはならない」と再び囁く声が響いた。
その瞬間、地面が揺れ、足元の土が崩れ落ちる感覚がした。
彼らの目の前には、開いた罠が現れていた。
この廃墟には、かつての住民たちが仕掛けた罠が隠されていたのだと確信した。

高橋はその罠に引っ掛からないよう、必死に後ろに下がった。
「佐藤、急いで!」しかし、彼が声をかけたとき、佐藤が罠に足を取られ、地面に転がり落ちてしまった。
高橋は驚愕し、手を差し伸べたがその瞬間、目の前で佐藤が呑み込まれるように消えていった。

「助けて!」という叫びが消え、静寂が再び戻ってきた。
高橋は何が起こったのか理解できず、逃げることだけを考えた。
神社の影から逃げ出し、村を抜け出そうと必死に走り続けた。
周囲の闇が彼を取り巻くように感じ、何度も振り返ったが、あの影は追ってこなかった。

村から遠く離れた後、初めて息をつくことができた。
高橋は振り返り、廃墟が消え去ることを願ったが、心の中には佐藤の叫びが響き続けていた。
彼は決してその村に戻ることはないだろう。
それはただの廃墟ではなく、罠が仕掛けられた場所だったのだ。

タイトルとURLをコピーしました