「消えた印、燃えた影」

ある村の外れに、地元の人々から「印の家」と呼ばれる古びた家があった。
この家には、無数の印が壁一面を覆い、訪れた者は決して帰ることができないという伝説があった。

村の若者、健太は、友人たちと共にその家を肝試しの場として選んだ。
興味本位でその噂を信じることはなかったが、友人たちの好奇心に誘われ、深夜に家の前に立つことになった。
月明かりの下、家の影は恐ろしいほど長く伸び、微かな風が木々を揺らし、まるで誰かを呼んでいるかのように思えた。

「さあ、行こうぜ!」友人の一人、直樹が言った。
恐怖を隠すように大声を出す。
しかし、健太は明らかにその動揺を隠せずにいた。
家の周りには、見えない力が渦巻いているように感じた。

彼らは勇気を振り絞って家の中に足を踏み入れた。
古い木の扉がきしむ音が、彼らの心臓を強く打つ。
中はひんやりとしていて、埃っぽい香りが立ち込めていた。
月明かりが隙間から差し込み、薄暗い室内をかろうじて照らしていた。

壁には、黒くて不気味な印が描かれていた。
それは何かを見る者を引き込むような、奇妙な形をしていた。
健太は思わずそれに手を伸ばした。
この印に触れてはいけないのではないかという警告が脳裏をよぎったが、興味が勝ってしまう。

「やめとけ、健太!」と陽子が叫んだ。
しかしその声が届く前に、彼の手は印に触れてしまった。
その瞬間、周囲が激しく揺れ始め、家が不気味に燃え上がるような炎の色に包まれた。

「逃げろ!」直樹が叫び、皆が慌ててドアに向かうが、ドアは頑丈に閉ざされ、開くことはなかった。
彼らは恐怖に駆られ、印が焼き尽くすような熱さを感じ始めた。
無数の印の中から一つが彼らをじっと見つめているようだった。

「これは夢だ、これが現実なわけがない!」健太は叫ぶが、震える声が彼自身を包み込んだ。
次第に、彼の視界には、煽るように揺れる炎が映り込んでいた。
体温がどんどん上がり、家の中の空気が熱くなっていく。
印が生きているように彼らを捕らえていると、健太は理解した。

「印が消えるまで、出られないのか?」陽子が涙声で問いかけた。
健太は力を振り絞って家の中を探索しはじめたが、印は消えるどころか、一つ一つが彼の心に影響を与えてくる。
印が生きているかのように彼の心を焼き焦がし、恐怖が押し寄せてくる。

そのとき、直樹が声を上げた。
「何かがいる!後ろに!」振り返ると、青白い影が彼らの後ろに立っていた。
それはかつてこの家に閉じ込められた者の霊だった。
健太たちは、その影が彼らに近づいてくるのを感じた。

「私を助けて、ここから出して!」影が叫ぶように訴えた。
その声には、絶望感が満ち溢れていた。
だが、同時に彼らはこのままでは永遠に閉じ込められることを感じ取った。

力を合わせ、健太たちは印を消す方法を見つけるために話し合った。
「印を逆さに描けばいいんだろうか?それとも、何か特別な言葉が必要なんじゃ…」陽子が提案した。

絶望の中でもわずかな希望を求め、彼らは印を一つずつ逆さに描き始める。
すると、徐々に印の炎が消え始め、同時に青白い影も安らいでいくのが見えた。
ついに全ての印が消えた瞬間、家のドアが静かに開いた。
彼らは全力で外に飛び出した。

外の空気が清々しく、彼らは安堵のため息をついた。
振り返ると、印の家は静かに佇んでいた。
二度と戻ることはできないと心に誓った彼らは、その場を後にした。

だが、心の奥底には、印の家での出来事が一生消え去ることはないという不安が、いつまでも残り続けた。
傷跡となった印は、彼らの心の中で燻り続けたのだった。

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