「消えた仲間」

在は、友人たちと共に山奥の古びた神社を訪れることにした。
長い間人が訪れないこの場所には、何か不気味な噂が広まっていた。
特に「消える者たち」という話が有名で、神社に近づいた者は誰も帰ってこないというのだ。
だが、好奇心が勝り、仲間の圭太、真由、美香とともにこの神社に向かっていた。

月明かりの下、湿った空気に囲まれた神社にたどり着くと、冷たい霧が立ち込めていた。
境内には古びた鳥居がひとつ立っており、その周りには草が茂っていた。
友人たちも、何かしらの恐怖感を抱いている様子だったが、在はその場に立つことに興奮を覚えた。
彼女はスマートフォンのカメラを向け、記録を残すことにした。

「ここが噂の神社だね」と真由がつぶやいた。

「このアングル、すごくいいよ。後でInstagramにアップしよう」と在は満面の笑みを浮かべながら言った。

その時、鳥居の向こうに薄暗い影が過ぎ去った。
友人たちは思わず後ずさり、在だけがそれを見逃さなかった。

「みんな、今の何か見た?」と彼女は振り返った。

「ただの影じゃないの?」圭太は怖がりながら言ったが、彼の声には不安が混じっていた。

「別に、気にしなくていいよ。写真が撮れれば、それで勝ちだし」と在は、半ば無理に笑いながら先へ進んだ。

神社の内部は暗く、異様な静けさに包まれていた。
彼らは懐中電灯をかざして、慎重に進んでいく。
床は木と石の混ざった不安定な感触があり、どこかからは水の流れる音が聞こえてくる。
美香はその音に耳を傾け、「何か、変だね。ここ、怖いんだけど」と警戒した。

「大丈夫、すぐに出られるから」と在は強がった声を出しながら、奥に進み続けた。
すると、彼女の足元に何か冷たいものが触れた。
振り向くと、光の無い、真っ黒な視線が彼女を刺すように感じた。

「聞こえてる?私の声が聞こえてる?」影が消えると同時に、耳に響くざわめきが彼女の頭をかき回した。
「決して、進むな」という声が聞こえ、彼女は思わず立ち尽くした。

「在、大丈夫?」圭太が心配そうに声をかけた。

「うん、ちょっと…感じただけ」と彼女は言ったが、内心では恐怖が増幅していくのを感じていた。
決断をしなければならない。
逃げるか、進むか。
冷や汗をかきながら、在は神社の奥へと足を進めた。

その時、友人たちの声が響いた。
「在、戻ろう!」美香の叫び声があたりに広がったが、それもすぐにかき消されるように静寂が戻った。
彼女は振り返ると、友達の姿がすぐ後ろに見えず、代わりに周りが黒い霧に包まれていることに気が付いた。

「やばい、なんでみんな消えたの?」心臓が高鳴り、在は焦り始めた。
道を引き返そうとしたが、霧はますます濃くなり、視界が奪われていく。
何かが、彼女に近づいてきていた。

目の前に現れたのは、彼女が影だと思っていた存在だった。
薄暗い顔が在を見つめ、微笑んでいるがその表情はどこか歪んで見えた。
「私たちの決断は、あなたの未来を決める」と、その声が響き、彼女の心に深い恐怖が浸透した。

光が消え、視界が真っ暗になった次の瞬間、在は再び神社の外に立っていた。
周囲には友達の姿はなく、ただ静寂だけが広がっている。
孤独と不安が心を埋め尽くし、彼女はただただ駆け出した。

その後、在は一人で帰宅し、何が起きたのか整理できないまま日々を過ごした。
だが、彼女の心の中には「決して戻ってはいけない場所」が刻まれ、それを忘れられないまま生きることになるのだった。
人々が語る「消える者たち」の噂の中には、彼女もまた忘れ去られる運命が含まれていたのだ。

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