深い山々に囲まれた静かな集落、敷村。
その村に住む浪(なみ)は、普段から穏やかで親切な女性だった。
しかし、彼女の周囲には少し奇妙な噂があった。
村人たちは「浪には不思議な計算能力がある」と言い、特に「数の神」として知られていた。
彼女は、周囲を助けるため、日々、商売の計算や村の行事の準備を手伝っていた。
そんなある日、村の年に一度の祭りが近づいてきた。
浪は、子供たちのための出し物を計画し、彼らが楽しめるように細かく準備を進めていた。
しかし、祭りの日が近づくにつれて、村では異変が起こり始めた。
人々が消えていくのだ。
最初は小さな子供が一人、次に青年が一人、そして村の年長者たちも次々と姿を見せなくなった。
村は不安で filled し、その原因を探るために皆が集まり話し合ったが、答えは見つからなかった。
浪は、消えた人々に思いを馳せる中、悟ったことがあった。
「数の神」としての自分の能力はおそらく、村の人々を救うために使うべきだと。
彼女は、村の古い文献を調べ、消えた人々の足跡を辿る計画を立てることにした。
夜、浪は一人で山の奥深くに踏み込んだ。
薄暗い森の中、彼女の計算能力が、まるで何か見えない存在に導かれるように働いていく。
彼女は、長い間忘れられていた古い社に辿り着いた。
そこには、山の神が宿っているという言い伝えがあったが、同時に多くの人々が消えた原因でもあると言われていた。
浪は社の中に入ると、神の像が一つ、まるで彼女を待っていたかのように佇んでいた。
そこで彼女は一つの計算を思いついた。
人を召還するための儀式を行うことができれば、消えた者たちを取り戻せるのではないかと。
しかし、その儀式には一つ、重要な要素が足りなかった。
祭りの日に必要な供物である、村の人々の「想い」だった。
彼女は、消えた人々のことを思い出し、彼らの声や笑顔を心に呼び起こした。
彼女の中に、彼らの記憶や願いが甦り、強く結びついていく。
その瞬間、彼女の目の前に光が現れ、消えた人々の姿が浮かび上がった。
「私たちを忘れないで、私たちを呼び戻して」と、彼らの声が響く。
浪は思わず涙を流し、「絶対に忘れない、あなたたちのことを必ず思い出す」と誓った。
その瞬間、淡い光が彼女の周囲を包み、消えた人々がそこに戻ってきた。
彼らは、彼女の強い想いと計算が生んだ奇跡によって、この世に帰ることができたのだった。
村に戻った浪は、消えた人々と共に温かく迎えられ、集落は再び活気を取り戻した。
しかし、彼女の恐れは消えなかった。
山の神の影が、今もその森の中に潜んでいることを知っていたからだ。
結局、祭りは比類のない喜びの祭りになったが、浪の心の中には「数の神」としての力の恐れが確かに根付いていた。
いつ何時、また戻ってくるか分からない、それでも彼女は自分の記憶をしっかりと保ち続けることを決意した。
そして、山の静けさの中で、それを忘れることの恐怖を鳴らし続けたのだった。