童の健太は、小さな町の図書館で本を借りるのが好きだった。
彼は特に古びた本や、誰も読まなくなったような本に強い興味を持っていた。
ある日、健太は図書館の奥にある、一番古い本棚の前で、不思議な本を見つけた。
それは真っ黒な表紙で、タイトルも著者名も何も書かれていなかった。
まるで本自体が存在しないかのように思えた。
興味を引かれた健太は、その本を借りて家に持ち帰った。
家に着くと、彼はその本を開いてみることにした。
ページをめくると、そこには白いページに黒い文字で恐ろしい物語が綴られていた。
内容は、悪を題材にした話ばかりで、語り手は常に「読んだ者の心を吸い取る」と警告をしていた。
最初は気にも留めなかった健太だが、読み進めるにつれ、不安が勝ってきた。
その物語には、読むことで人々の心に悪が入り込み、最終的に消えてしまう人々が描写されていた。
段々と、彼の周りの風景が変わっていくのを感じた。
夕暮れ時に窓の外を見ると、町の様子がいつもと異なって見えた。
道行く人々の顔は無表情で、偶然目が合った瞬間、彼は不気味な恐怖感を覚えた。
その夜、健太は夢の中で不気味な影に追い詰められていた。
その影は彼に向かって手を伸ばし、「悪を持っている者は消える運命だ」と囁く。
恐ろしい声だった。
逃げようとしても、体が重くて動けない。
朝起きたとき、彼の体は汗でびしょ濡れだった。
夢のことが頭に残っていて、彼は本を閉じ、しばらく読まないことに決めた。
しかし、その本は彼を呼んでいるように思えた。
数日後、健太は再び本に手を伸ばすことにした。
好奇心が勝り、ページをめくり始めた。
すると、ページの中に描かれている場面が徐々に現実の景色とシンクロし始めた。
自分が本の中の人物と同化していく感覚を覚え、恐怖が一気に襲ってきた。
目の前には、彼の知っている町の風景が、あの影と結びついているように見えたのだ。
その瞬間、健太は再び夢の中に引き込まれた。
そこでは再び影が現れ、「お前ももうすぐ消える」と言った。
恐怖感が彼の心を締めつけ、次第に思考が乱れていく。
彼は一体どうすればこの状況から逃れることができるのか、何が悪で、何が本来の自分なのか、考えがまとまらなかった。
すべてが悪化する中、健太は本を捨てようと決意した。
しかし、彼の手は本に吸い寄せられるように動いてしまう。
逃げようとすればするほど、悪は彼の内側に入り込んでいく。
ついには、彼の意識がだんだんと曖昧になり、周りの景色もいつしか薄れ始め、彼自身も消え去る恐れに囚われ続けた。
その後、誰も見かけなくなった健太は、図書館でその本を開いたまま消えてしまったのだ。
図書館の一角には彼の存在が、まるで形はなくなった書物の中に閉じ込められているかのように感じた。
悪とは、まさにこうして人の心を消し去るものなのだと、彼自身が証明してしまったのだ。