「海に消えた友の影」

夏の終わり、友人たちと共に海へ出かけた。
その日は潮が引いて、広々とした浜辺が姿を現していた。
私たちは海の透明度に驚き、早速水遊びを始める。
波の音に耳を傾けながら、笑い合い、友達の大切な存在を感じていた。
海の深い青色に心を奪われ、この瞬間が永遠に続けばいいと思った。

でも、その日の夕暮れ時、何かが変わった。
空がオレンジ色に染まる中、浜辺で焚き火をすることにした。
友人たちが薪を集めている間、私は海の方を見ていた。
すると、ふと海の中から異様な光が放たれていることに気づいた。
波間に浮かぶ炎のようなもの。
友達が「何だろうあれ?」と近寄ってくる。

「ちょっと見に行こうよ!」と友人の悠太が提案する。
私たちは無邪気にその光に惹かれ、波打ち際へと足を進めた。
だが、不安が胸をよぎる。
それは海の底から上がってくる、まるで誰かが私たちを呼んでいるような光だった。
ただ、好奇心が勝り、声を上げながら近づいていった。

突然、波が大きくうねり、ざっぱんという音と共に、海の中から何かが浮かび上がってきた。
それは炎によって燃え上がるように見えたが、よく見ると、か細い手が海面から伸び上がっている。
友人たちは恐怖に震え始め、後ろに下がろうとした。
しかし、何かに惹かれるように私はその光に近づいていた。

その手は徐々に具象化され、女性の姿を伴って浮かび上がった。
青白い肌に、長い髪が水面を漂わせている。
その女性は、優しい笑顔で私たちを見ていた。
彼女は私たちに近づこうとするが、明らかに海から出ることができないようだった。
しかし、その視線はどこか懐かしいものだった。

「私の名前は絵美。この海の底にいる者たちを見守っている。あなたたちがここに来てくれて、ずっと待っていたわ。」彼女の声は、水の中から響くようにやわらかかった。
しかし、その言葉の裏には、何か切実な思いが込められているように感じた。

「待ってたって…どういうこと?」私は言葉を発したが、足は海の中に引き寄せられるように感じた。
友人たちは私を引き留めようとしたが、彼女の目に吸い込まれていく気がした。

「私たちは愛に生き、友を思っていた。だけど、この海は私たちを離してしまった。あなたたちの手を借りて、私を解放してほしい。」絵美は悲しげに告げた。
画面のように美しい彼女の姿を見つめるうち、視界がぼやけていく。

悠太が「おい、やめろ!」と叫んだ瞬間、周囲の温度が急に下がった。
海全体が冷たく、絵美の手からは炎が燃えていた。
私たちの心を支配する恐怖が、確実に形を成していた。
絵美の視線が私たちを捉え、その手がさらに波間から伸びてくる。

「お願い、私を助けて。あなたたちが必要なの。」友達が叫び、必死に私を引き寄せていた。
しかし、心のどこかで彼女を助けたいと思ってしまった。
友人たちとの絆を試すようなこの状況に、私は心が引き裂かれそうになった。

その時、海が大きくうねり、一層強い波が押し寄せてきた。
絵美の目が悲しみに満ち、彼女の顔が次第に恐ろしい影に変わっていく。
私に迫るその影は、私たちの恐れを叫ぶように、その深い海に引き寄せようとしていた。

「あなたに愛されたかった。でも、私の存在は、生の裏側にあるの。」絵美の言葉が耳に響き、その瞬間、私は彼女を拒絶するかのように体を動かした。
友人たちも私の後ろに立ち、絵美から離れようとしていた。

海に飲み込まれそうになる感覚と、友達の手をしっかり握ることで、私たちは逃げ出すことができた。
しかし、私の心の奥には、絵美の切実な思いが常に残り続けた。
恐怖が去った後も、その女性の存在を忘れることはできなかった。

浜辺に戻ると、沈んだ夕日が私たちを優しく包み込み、海の向こうに一つの影が消えていくのが見えた。
それは燃え上がる光であり、愛されたくても生の重みに沈み続ける存在だった。
私たちは友としての絆を強めながら、胸の奥に一つの秘密を抱え、生き続けるのだった。

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