海の底に沈む小さな島、そこには忘れられた伝説があると語り継がれていた。
島の近くで生まれ育った涼介は、その話を子供の頃から耳にしていた。
ある日、家族を亡くした喪の感情を抱えた彼は、島へ渡ろうと決意する。
彼は「何かが待っている」と感じていたのだった。
涼介は小さな船を借りて夜の海へ漕ぎ出す。
波の音は静かで、月の光が水面を優しく照らしていた。
島に近づくにつれ、彼の心は高鳴った。
何が待ち受けているのか、彼は期待と不安に包まれていた。
船が島に着岸すると、涼介は慎重に岸に足を踏み入れる。
島は静まりかえり、まるで彼しかいないかのようだった。
彼は足元の苔を踏みしめ、島の奥へと進む。
すると、古びた神社が見えてきた。
見たこともない神社に驚きながらも、涼介はその場に引き寄せられるように近づいた。
神社の社殿には、古い石碑が立っており、「失われた者たちの祈り」と刻まれていた。
ふと涼介は、背後から視線を感じた。
振り向くと、薄暗い中からひっそりとした女性の姿が現れた。
彼女は白い着物を身にまとい、哀しげな表情をしていた。
「あなたは、私を探しているのですか?」涼介はその声に惹かれ、彼女に尋ねる。
「何を求めているの?」彼女は静かに言った。
「私を見つけてくれれば、彼らの悲しみも終わるのです。」
涼介は胸が詰まる思いがした。
彼はその女性が、彼の亡き家族の一人のように感じた。
彼はその場に跪き、彼女に何かを伝えたいと思ったが、言葉が出てこなかった。
「始めましょう。」女性の言葉に促され、涼介は彼女の目を見つめる。
その瞬間、周囲が暗くなり、波の音が高まった。
光が瞬くと、彼の目の前には家族の姿が浮かんだ。
彼らは笑顔で迎えてくれたが、どこか悲しそうな雰囲気も漂っていた。
涼介は再び喪の感情に包まれた。
「どうしてここにいるの?」彼は声を震わせて聞いた。
家族は一斉に口を開く。
「私たちは、あなたを待ち続けている。」
薄明かりの中、涼介は彼の背後で女性が立っているのを感じた。
「彼らの悲しみを終わらせるためには、あなた自身が決断を下さねばなりません。」涼介は心の奥で葛藤した。
喪失から解放されたいという思いと、家族への愛が交錯していた。
「私は、どうなりたいのか…」涼介は自問自答した。
すると、彼の周囲を囲む海水が渦巻き始め、空気が重く感じられた。
時間が止まったかのように感じられ、彼は選ばなければならない時が迫っていた。
「あなたを選ぶか、彼らを選ぶか。」女性の声が耳に響く。
涼介は涙する。
一人の命を奪われた痛みが彼を引き裂く。
しかし、彼は彼自身の人生も大切にしたいと思った。
「私は、家族を思い続ける。でも、私自身も生きたい。」その瞬間、海が静まり、女性が微笑む。
「それがあなたの選択です。」
目を開けた時、涼介は神社の前に帰っていた。
全てが夢だったのか、それとも現実だったのか。
手には、一枚の古い写真が握られていた。
そこには笑顔の家族が映っていた。
彼は決意した。
心の中の喪を抱えつつも、今を生きることの大切さを感じていた。
彼は再び船に乗り、夜の海を後にした。
この島での出来事は、彼にとって「始」でもあり「終」でもあった。