港町の海辺に、静かな波音が響く薄暗い道があった。
その道沿いには、古びた桟橋があり、船が岸に寄せられるたびに、海の香りが漂っていた。
しかし、そこには一つの不気味な噂があった。
「この港で消えた者は、二度と戻らない」というものだった。
ある日、惠美（えみ）という若い女性が、その港町に訪れた。
彼女は都会で疲れた心を癒すため、海の景色を求めてやってきたのだ。
港で働く人々は親切で、彼女は地元の人間との交流を楽しみ、日々を過ごしていた。
しかし、港町の夜は独特の静けさを持っている。
漁り船が停泊する音だけが響き、一見すると平和そのものだが、暗闇の中に潜む不気味な力を感じた惠美は、心のどこかで恐れを抱いていた。
しかし、彼女は自分の理由を果たそうと、その感情を押し殺し、毎晩海に向かった。
ある夜、惠美は一人で桟橋に立っていた。
波音が心地よく響く中、彼女の視界の端に何か白いものが揺らめくのを見つけた。
それは人影に見えた。
近づくと、それは若い女性であり、彼女もまた港に立っていた。
惠美はその女性に話しかけた。
「あなたもここに来ているの？」
女性は振り向き、その黒い髪と白い服に包まれた姿が月明かりに照らされる。
彼女の目に宿る悲しみが、惠美の胸を打った。
「私は、ただここにいるだけ……」女性はそう言い残し、また海に目を向ける。
その瞬間、惠美は彼女の存在が異様に薄くなっていくのを感じた。
「消えそう……」心の底で何かがざわめいた。
惠美は驚き、女性を引き止めようと手を伸ばすが、その手は空を掴んだ。
「何が……あなたの名前は？」
女性は徐々にその体を消していきながら、答えた。
「私の名はさやか。１０年前、この港で消えた。」
惠美は驚愕した。
彼女はこの港で消えた者の一人だったのだ。
惠美は心拍数が上がり、恐怖に包まれた。
この港で何が起こったのか、彼女は理解しようと必死だった。
「なぜ、あなたはここにいるの？」
「解放を待っているの。私の存在を忘れられ、恐れられ、そして再びこの波の音を聞くことを願っている。」
惠美は足がすくみ、息を飲んだ。
自分もいつの間にかその目に映る存在になってしまうのではないかと不安になった。
彼女は心の奥で叫んでいた。
「消えてしまうのはいや！私の名前は惠美。あなたのことを忘れないから！」
すると、さやかの姿はさらに薄くなり、彼女は微笑みながら言った。
「あなたの声は、私に希望を与える。そう、覚えていて。」
その言葉が響くと同時に、冷えた風が惠美の周りを巻き込み、波の音が強くなっていく。
視界が歪み、彼女の感覚が麻痺する。
惠美は恐怖に押
