修は、小さな村に住む普通の青年だった。
彼は友人たちと共に、自然豊かなマイナスイオンに満ちた場所で過ごすことが大好きで、特に村の外れにある沼は、彼にとって特別な場所だった。
だが、その沼には不気味な噂があった。
日が暮れる頃、そこには失われた存在が漂っているというのだ。
ある日の夕方、友人たちとバカ騒ぎをした後、修はふと沼に足を運ぶことに決めた。
彼はその静けさに心惹かれていた。
水面に映る月の光と、周囲の静けさが彼の心を落ち着かせる。
しかし、そこには何かが違っているように感じられた。
沼の岸に立ち、修はその深い水に目を凝らした。
突然、動きが感じられ、彼は思わず後ずさりした。
水面が波打ち、その瞬間、沈んでいたかつての生き物—人々の姿が浮かび上がってきたように見えた。
彼は急いで目をそらしたが、心の中に強い好奇心が湧き上がった。
「会ってみたい」と思ったのだ。
「彼らは何を考えているのだろうか?」
その夜、修は勇気を持って再び沼へ向かうことにした。
月明かりの下、彼は岸辺に立ち、心の中で彼ら—かつてこの世を去った人々に呼びかけた。
すると、まるでその想いが届いたかのように、水面がさらに波立ち始めた。
驚いたのは、そこから一人の女性が現れたのだ。
彼女は穏やかな笑顔を浮かべ、修の方に近づいてくる。
光の翳りのような姿で、周囲の暗闇とは対照的だった。
彼女の名は舞といい、かつてこの沼の近くで生きていたが、事故で命を落としたのだという。
「私を呼んだの?」と舞が尋ねる。
修は驚きながらも、彼女との会話を楽しもうと心に決めた。
彼らの会話は次第に深まり、彼女は自らの過去や夢について語った。
彼女の言葉には、現世に対する無念さと、残された人々への想いが込められていた。
しかし、会話は長く続けられず、次第に不安な感情が修の心を覆った。
彼女がこの世に戻れない理由を感じ取ったからだ。
舞は、自分の魂がこの沼に縛られていることを告げる。
彼女は、他の人々同様に、心のどこかで未練を感じていたのだ。
「どうすれば、あなたは解放されるの?」修は彼女に尋ねた。
舞は静かに答える。
「私の思いがここに留まっている。だから、私の想いを伝えてほしい、私を忘れないでと。」修は彼女の思いを受け入れ、心に誓った。
彼女の存在を、彼と友人たちがしっかりと記憶に留めることを。
その夜、修は帰ることにした。
振り返ると、舞は水面に消えていくところだった。
彼女の最後の微笑みが、沼の水に映り込み、すぐに波に飲まれた。
彼女の言葉が絶えず耳に残り、修は決意を新たにした。
彼は、この出来事を決して忘れず、村の人々に伝えることを誓った。
それから数ヶ月が過ぎ、修は村の友人たちに沼での出来事を語り、舞の存在を伝え続けた。
彼は友人たちを連れて、沼の美しい情景を共に楽しむと同時に、彼女を忘れないための祈りを捧げる場所にした。
そして、村での会話の中では、舞の物語は語り継がれることとなり、彼女の魂は少しずつ解放されていくのを感じた。
しかし、修はいつまでもその沼を訪れ、舞の声に耳を傾けることをやめようとはしなかった。
彼にとって、彼女との会話はただの夢物語ではなく、生きた証として、永遠の絆を結んでいたからだ。