「河の向こうの義」

祖父の家は小さな田舎の村にあり、静かな河辺に面していた。
この場所には、幾世代にもわたって受け継がれてきた家族の伝説があった。
私が幼い頃、祖母から語られたその話は、「義」を重んじる家族にとって特別な意味を持つものであった。

ある晩、私はいつものように祖父と二人で過ごしていた。
窓の外には、川の流れる音が響いており、夜の静寂に包まれていた。
突然、祖父が思い出したように言った。
「お前も、あの時の話を聞かせてもらおうか?」と言い、私が以前に聞いた話をもっと詳しく語り始めた。

その話は「義」の名を背負った先祖の物語であった。
祖父の話によれば、過去にこの家系は、戦に赴き、仲間を裏切って生き残った者がいた。
その者は、生き延びたことに罪の意識を抱き、家族の「義」に報いるために、自ら命を絶ったとされていた。
それ以来、血縁の者には不幸が訪れると言われ、先祖の名誉を守るため、皆が気をつけて生きなければならなかった。

一度亡くなった者が後の世に現れることは滅多にないが、義の名を軽んじた者には見えないチカラが働くこともある。
祖父は、その彼の霊が夜な夜な河辺をうろついているという噂も語った。
私はその話に興味を持ち、思わず祖父に問いかけた。
「おじいちゃん、実際にその霊を見たことがあるの?」

祖父は少し黙って考えてから、昔の話を語り始めた。
ある晩、祖父が若かりし頃、友達と河で遊んでいた時のこと。
いつの間にか友達が一人、いなくなってしまった。
彼らは彼を探し続け、ようやく川のほとりにたどり着くと、そこには白い着物を着た少年の姿があった。
その少年は彼らを無言で見つめ、まるで彼らを誘導するかのように川の中へと歩いて行った。

友達はその姿に心を惹かれ、次第に彼の後をついていった。
しかし祖父は、不気味な感覚を抱き、彼を止めようと叫んだ。
しかし、声は届かなかった。
友達は、自分の意志とは関係なく、どんどん川の中に引き込まれていった。
そして次の瞬間、そこに現れた水の精霊が友達を包み込み、一緒に消えてしまった。

その出来事があってから、祖父は「義」を重んじることの重要性をも痛感したという。
彼は生き残ったことで恥を感じ、友達を失ったことで自分の行動に責任を持たねばならないと感じた。
その後、祖父は結婚し、家庭を持ち、私たち世代にその教訓を残すこととなった。

私は、この話を聞くうちに、何か不気味なものを感じ始めた。
祖父が話していると、外から不気味な音が聞こえてくる。
河の流れはいつもとは異なるリズムで、ダークな波の影が家の壁に映し出されているように思えた。

「義」を意味する先祖の想い。
そして、河辺での出来事。
心に残るのは、失われた友達だけではなく、私たち自身の義務でもあった。
祖父が話を終えた後、私は思わず窓の外を見つめた。

静かに流れる河。
しかし、その先には、何か不気味な影がさまよっているような気がした。
私は一瞬恐怖を感じたが、自分が義務を果たすことを怠ってはいけないと心に誓った。
これからも「義」は私たち家族の支えであり続けるだろう。
そして、この祖父の話と同様に、私も同じく忠実な子孫として生きていかなければならない。

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