「決意と禁断の山」

山深い静かな場所に、一つの古びた小屋があった。
その小屋は、かつて旅人の休憩所として利用されていたが、今では地元の人々から忘れ去られた存在になっていた。
小屋には、かつて働いていた少年、俊樹の名が刻まれた木製のプレートが残っていた。
俊樹は、山を訪れる人々に道を案内し、時には彼らの心を癒やすための話をしていたという。

ある日、心のリフレッシュを求めてこの山に訪れた大学生の由紀は、興味を抱き小屋に足を運んだ。
小屋の皮膚のように見える古びた木材と、散乱した落ち葉は、まるで長年の静寂を訴えるかのようだった。
彼女は扉を押し開け、中に入ってみたが、異様な不気味さを感じた。
小屋の中はぼんやりと暗く、隅々にはほこりが積もっていた。

「誰かいるの?」由紀が声をかけても、返事はない。
ただ、静寂が彼女を包み込むだけだった。
小屋の奥には、古いストーブがあり、火が入っているかのように冷えた空気が感じられた。
しかし、そのストーブに近づくと、何かが違うことに気づいた。
火はないのに、まるで温もりが感じられる場所だった。

不安になった由紀は小屋を後にしようとしたが、その瞬間、後ろから小さな声が聞こえた。
「出ていかないで…」振り返ると、そこには俊樹の姿があった。
しかし、その姿は非常に薄く、まるで影のように背景に溶け込んでいた。
彼女は驚き、そして恐怖を覚えた。

俊樹は静かに続けた。
「ここに残った者の想いは、決して消えない。そして、山は私たちの決意を試す場所。出ていく前に、もう少し私の話を聞いてほしい。」由紀は耳を傾けざるを得なかった。
俊樹は、自身が長い間この山で道案内をしていたこと、そして山の奥深くには禁断の場所が存在していることを語り出した。

その場所には決して入ってはいけないという。
入った者は自らの決意を試され、合格しなければ二度と出られなくなるのだ。
彼はその禁断の場所に心を奪われてしまい、ついにはそこへ足を踏み入れてしまったという。

「私はその場で自分の決意を試され、力尽きてしまった。だから、ここにいるんだ。」俊樹の声には後悔と悲しみがこもっていた。
由紀は恐怖に震えながらも、俊樹の言葉の意味を実感していた。
自分自身の心の奥深くに潜む決意や欲望が、彼女を誘惑している気がした。

もう逃げるべきだと思った時、突然、扉がバタンと閉まり、隙間から冷たい風が吹き込んだ。
由紀は気づいてしまった。
自分が彼の話に心を奪われ、決意を試されているのだと。
彼女の頭に、心が恐れを抱く中で「行かなければならない」という考えが渦巻いていた。
そこに不安や恐怖を抱えたまま、彼女の選択は一体どこに向かうのか。

俊樹は優しい笑顔を浮かべながら、彼女に向かって手を差し伸べた。
「一歩踏み入れて、試練を受けてみてはどうだろう?それとも、私のようにここに永遠にいることを選ぶ?」

由紀は深呼吸をし、意を決した。
「行きます、私も試練を受けます。」彼女は扉に向かって歩き、勇気を振り絞って開けようとした。
しかし、その瞬間、俊樹の声が背後で響いた。
「決意しなければ、試練を乗り越えることはできない。あなたが選ぶ道が、あなたを導くのだ。」

由紀はその言葉に勇気をもらい、扉を開いた。
外に広がる美しい景色を目にした瞬間、彼女は自分自身に問いかけた。
果たしてこれが本当に自分が望んでいる道なのか。
それとも、永遠にこの場所に留まることを選ぶのか。
心の奥深い底で、彼女の決意に試練が待っているようだった。

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