ある晩、一つの静かな道があった。
夜も更けるにつれ、周囲は闇に包まれ、ほんのりとした灯りが道を照らしている。
田中と佐藤は、友人たちと遊び疲れた帰り道、何気なくその道を歩いていた。
二人は途中にある小さな池を通り過ぎるつもりだった。
池の水面は月明かりを反射し、どこか神秘的に輝いている。
田中が立ち止まり、「ちょっと池に寄ってみようよ」と言った。
佐藤は「もう帰ろうよ」と渋ったが、田中の興味には抗えず、結局二人は池の辺りに近づいた。
池のそばに着くと、何か不気味な静けさが漂ってきた。
水面は静かに滑らかで、その奥深くには漠然とした影が感触として存在するように感じられた。
田中はその水面に顔を近づけ、「何かいるかな？」と冗談交じりに呟く。
その瞬間、水面が波打ち、まるで何かがその下から浮かび上がってくるかのように感じた。
佐藤は恐れおののき、「やめた方がいいよ、怖いから」と言ったが、田中は悪戯っぽく笑いながら「大丈夫だって、なんもいないよ」と言った。
しかし、田中はその言葉を発した直後、水面から一つの手がゆっくりと現れた。
それは水の中で重々しく揺れながら、まるで誰かが助けを求めるかのように見えた。
佐藤は「見て、あれ……！」と指をさした。
田中の表情は一瞬で恐怖に変わり、二人は後ずさりした。
池の水はさらに揺れ、不気味な声が響いてきた。
「助けて……助けて…」その声は限りなく弱々しく、それでもどこか耳に残る響きを持っていた。
二人は恐れに駆られ、逃げ出そうとしたが、足は根付いたように動けなかった。
田中が一歩前に出ようとした瞬間、池の水面から黒い姿が突如現れ、その形は徐々に人間の姿に変わっていった。
顔はうつむき、長い髪が水面に揺れ、その手は強く二人を引き寄せようとしている。
田中と佐藤は恐怖で凍りつく。
「逃げて！」佐藤が叫んだ。
その声に反応し、二人は急に反転し、全力で池から離れた。
背後では、助けを求める声がますます大きくなっていた。
もちろん二人は耳にしたその声には耳を貸さず、ただ無我夢中で道を駆け抜けた。
家に帰るまでの道のりは遠く、疲れた体を抱えながらも、その恐怖の記憶は二人の心に焼き付いていた。
ようやく自宅の玄関に辿り着き、安堵の息を漏らす瞬間、田中のスマートフォンが震えた。
画面には見慣れた名前、「友人の山田」からのメッセージが表示されていた。
「やっと見つけた。池の近くにいるの？」田中はその内容を見て驚き、思わず恐れた声を口にする。
「山田はあの池で消えた友人だ……」
そのとき、窓の外から不気味な声が聞こえてきた。
「助けて……助けて……まだここにいるよ……逃げられないよ……」その声は完全に田中の耳に残り、決して消え去ることはなかった。
彼の心を覆う静かな恐怖は、夜がその闇を深めれば深めるほど、より一層強くなっていくのだった。
