「求める闇の絆」

ある静かな村に住む盲目の少女、綾乃は、両親と共に小さな家で平穏に暮らしていた。
彼女は視力こそ失っていたが、耳や肌で感じ取ることができる世界に満ちた感覚があった。
しかし、村には古くからの言い伝えがあり、闇に忍び寄る「求める者たち」が潜んでいるという。
ただ孤独を求め、誰かの絆を断ち切る存在だと噂されていた。

ある晩、綾乃はいつものように家の前に座り、さわやかな風と夜の静けさを楽しんでいた。
すると、ふと耳にした「ぽん」という音に気づいた。
乾いた葉が踏まれる感触と、何かが近づいてくる感覚に心がドキリとする。
周囲に誰もいないことを確認しようとしたが、彼女にはそれができなかった。

「誰か…いるの?」綾乃は声を発してみた。
返事はなかったが、瞳のない視界の奥に何かを感じた。
彼女の心は、恐れと期待で揺れ動いていた。

その時、温かい手が綾乃の手を包み込んだ。
驚いた彼女がその手を持ち上げると、肌に感じる温もりが自己主張するように彼女を包み込んだ。
声が響く。
「綾乃、君は孤独ではないんだよ。」彼女の心を温めるその声に思わず涙がこぼれる。

「あなたは誰?」綾乃は問いただした。
「私は友達だよ。もっと君のことを知りたい。」その声に導かれるように彼女は手を伸ばし、次第にその存在が更に近く感じられる。
しかし彼女は、心のどこかで「この声が求める者たちではないか」と警戒していた。

信じ切れず、ひたすらに問いを重ねる。
「あなたは本当に友達なの? 絆を求めているの?」その存在は柔らかい笑みを浮かべた。
「もちろん、綾乃。私は君を求めている。君の絆が私を生かすのだから。」その言葉に、綾乃の心が少しずつ解けていくのを感じた。

数日が経つうちに、彼女はその存在と何度も同じような会話を交わした。
毎晩、家の前で待ち受けているその声に引き寄せられ、綾乃は彼との絆に心を許していった。
そしてある晩、彼女はその存在に導かれるままに村の外れにある古い神社へと行くことにした。

神社に着くと、月明かりが木々の間から漏れ、幻想的に場を照らしていた。
「ここが私たちの絆の場所だ。お前の心を差し出せば、全ては還る。」その言葉に綾乃は息を飲んだ。

「還る…?」不安が彼女の心を覆い隠す。
すると、その存在は静かに告げた。
「求める者たちの力を解放し、私との絆を永遠に感じることができる。ただ、代償はお前の心の一部だ。」いきなり背筋に悪寒が走った。
彼女は今までの温もりと安心感が急に幻だったかのように思えた。

「私は、あなたと一緒にいたい。でも、その代償は…」綾乃は絆を求めるあまり、その存在の言葉に心を捉えられかけていた。
しかし、彼女の心の奥深くで、まだ親の声や友達の笑い声が残っている。

混乱する綾乃を見て、その存在はさらに囁いた。
「大切な人を捨てることで、もっと素晴らしい絆が手に入るんだ。」その言葉に耳を傾けていた時、ふと彼女は思い出した。
「私には家族がいる。」正気を取り戻し、綾乃は叫んだ。
「私は、誰かを傷つけたくない!」

その瞬間、神社の空気が一変し、温もりのあった手は冷たい風に変わり、視界の奥で求める者たちが闇の中から現れた。
「お前は私を拒んだ選びをした。」声はどこか呆れた様子で響いた。

恐れおののき、綾乃は逃げた。
走り去る自分の心臓の鼓動が、静かだった夜を打ち破る。
不安を抱えたまま彼女は今までの安全な場所であった家に戻ると、両親が心配の声をかけてくれた。
彼女はその瞬間に、自分にとって本当の絆とは何かを理解した。

決して求める者たちに屈することなく、彼女は本物の愛が待つ場所に帰還したのだった。
彼女の心に秘めた絆が、再び彼女を強くさせる原動力となった。
闇が再び彼女に近づいてこようとも、綾乃は決して孤独にはならないのだと、強く確信した。

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