創(はじめ)は、長い間忘れ去られた山村で育った。
村には古い伝説があり、罪を犯した者が決して逃れられない「中」にまつわる話が語り継がれていた。
村の人々は、それを「罪の陣」と呼んで恐れていた。
彼はその話を聞くたび、漠然とした怖れを抱きながらも、自分には関係ないと心の奥底で思っていた。
だが、それは間違いだったのかもしれない。
創は大学に進学するため、村を離れた。
しかし、村を離れた今でもその話は彼の心に影を落としていた。
特に、彼がかつての友人である智也を暴力的な事故で失った日のことは、今でも胸に刺さったままだった。
彼の目の前で、智也が仲間たちに命を奪われる瞬間を見てしまったからだ。
後悔と罪悪感が彼を支配する。
あのとき、彼が智也を助けていたら、今も彼は生きていただろう。
彼はその思いを抱えながら、村に帰ろうと決意した。
帰村した創は、あの事件以降、村の人々が彼を冷たく扱う理由を少しずつ理解した。
罪を背負った者と創は、視線を交わしても何も感じなかった。
その眼差しは、冷たく、遠い。
村の雰囲気は薄暗く、どこか陰鬱だ。
村人たちは彼を避け、創は孤独を感じながら毎日を過ごしていた。
ある夜、創は自宅の裏手にある古い神社を訪れた。
神社は崩れかけていて、薄暗く静けさが漂っていた。
彼は罪の陣にまつわる話が真実だったのか確かめたくなったのだ。
創は、くっきりと浮かぶ月明かりの中で、神社の前に立っていた。
彼は足元に咲いている小さな草花を見つけて、智也のことを思い出した。
その草花は、智也の好きだった花で、彼が生きていた頃、一緒に見た思い出が蘇った。
「ごめん、智也…」そんな呟きをしたとき、何かが彼の背後に感じた。
振り向くと、そこには見知らぬ少女が立っていた。
白いワンピースを着て、彼をじっと見つめている。
その目には哀しみが宿っているようだった。
創は背筋が凍りついた。
「あなたの罪を知っている…」少女の声は、風の中に消えた。
その言葉が創の心に響き渡った。
「ここには私たちと同じ罪を抱えた者が集う場所。あなたもここにいたら、もう一度、過ちを繰り返してしまう。」
創は逆らうことができなかった。
彼は自らの過去を直視することができずにいた。
智也を見殺しにした罪が、彼をこの神社へと導いたのだ。
「私を助けて…」その言葉が、創に強く響いた。
彼はその言葉をどうにか理解しようとしたが、全てが混沌としていた。
彼は手を伸ばし、少女に触れようとしたが、彼女はすぐに消えてしまった。
その瞬間、周囲が急に暗くなり、村の風景が歪んだ。
その時、彼は村人たちの顔を思い出した。
自分が抱えた罪を忘れることができない彼らの苦しみと、智也の幽霊が交錯する。
彼は誰にも逃れられないのだと、強く認識した。
彼は神社を後にし、村へ戻った。
心の中で何度も智也に謝りながら、創は足を速めた。
しかし、どれだけ走ろうとも、村の影が彼を追い続けた。
彼はもう一度その場から逃げようとしたが、結局いつまで経っても「罪の陣」から逃れることはできなかった。
創は知っていた、彼の心の中に潜む罪は消すことができない。
それは山村の伝説が語る通り、彼を永遠に縛り続ける罪であることを。
彼は罪の重みを持ちながら、孤独と共に生き続ける運命を受け入れざるを得なかった。