ある夏の終わり、田村健一は友人たちとキャンプに出かけることになった。
静かな浜辺にテントを張り、海の音を聞きながら楽しいひとときを過ごしていた。
しかし、ふとした瞬間、彼らは異様な気配を感じる。
浜の向こうにいるはずの見知らぬ影、それはまるで闇から生まれたかのようだった。
夜が深まるにつれ、キャンプファイヤーの炎が小さくなり、周囲が暗闇に包まれていく。
健一とその友人たちは、あまりの恐怖を感じながらも、周囲の物音を気にせずに話を続けていた。
しかし、話題が「永遠に消えた人々」という怪談に変わると、場の雰囲気が一変する。
かつてこの浜で行方不明になった人々のことが語られると、皆の顔色がどんどん青ざめていった。
「浜に近づいちゃダメだ」と、年長の佐藤が言った。
「噂によると、浜の向こう側には亡霊がいるんだ。この浜に来た人を永遠に取り込むって。」
彼らは笑いながらも、どこか不安を感じていた。
だが、怖い話を楽しむ余韻に浸りながら、思わず浜の方を見やる。
そこには、一瞬、かすかに光る目が見えた気がした。
健一は背筋が凍りつく思いをし、顔を背けた。
夜が更けるにつれて、周囲の音が次第に不気味な静寂に変わっていく。
波の音だけが響く中、友人たちは次第に疲れ、自分のテントに入っていった。
健一は一人、焚き火の近くに腰を下ろし、まだ連絡を取っていない地元の人たちからの話を思い出していた。
彼の祖父から聞いた「浜に住まうもの」についての話だ。
「彼らは永遠に、この浜を見守っている。時折、浜で遊ぶ人々に取り憑こうとするが、そんな簡単には近づけない。けれど、灯りが消えると、誰も助けてくれない…」
その時、健一の耳にささやく声が届いた。
「助けて…早く…浜に…」それは透明な、しかしはっきりとした女性の声だった。
不思議なことに、彼はその声に引き寄せられ、知らず知らずのうちに浜に足を踏み入れていた。
浜辺に着くと、不気味な静けさが彼を包み込む。
月明かりの中、波が寄せては返すのを見ていたが、ふと気がつくと、彼の周りには見知らぬ人々の影が現れていた。
そこには、キャンプで話題にしていた失踪者たちの姿があった。
彼らの顔はどれも無表情で、彼を見つめていた。
「私たちは、永遠にここにいる。」その低い声が波の音に混じって響いた。
健一は恐怖に駆られ、岸に逃げようとした。
しかし、足が動かない。
彼の体は重く、まるで誰かに引き留められているようだった。
永遠に続くその時の中で、彼は一つの真実に気づく。
浜の上に立つ影の一つは、かつての彼の友人、佐藤の姿だった。
彼もまたこの町に迷い込んでしまったのか。
佐藤は微笑みながら、かすかに手を振って見せた。
「ここは、私たちの場所だよ。もう戻れないんだ…」
恐怖の中、健一は最後の力を振り絞って振り向こうとする。
しかし、彼の目の前には、次々と現れる無数の影が彼の意識を飲み込んで行った。
その瞬間、意識が途絶え、彼は浜に消えていった…。
翌日、友人たちはテントから出てくる。
しかし、健一の姿はない。
ただ波の音と、静かな浜だけが、永遠に彼を待つかのように残っていた。