薄暗い村の外れにひっそりと佇む、古びた小屋があった。
誰も近づこうとしないその場所には、昔からの言い伝えがあった。
「水がいずれかの時に口を開き、恨みを語る」と言われているのだ。
しかし、好奇心旺盛な少年・竜也は、その噂を信じず、その小屋に足を運んでみることにした。
小屋の前に立った竜也は、嫌な予感がするも、一歩踏み出した。
その瞬間、強い風が吹き、ひらりと閉じかけた扉が音を立てて開く。
彼はドキドキしながら中に入った。
そこで目に入ったのは、埃をかぶった家具と、ひっそりと水をたたえる大きな木製の桶だった。
「これが水の語る恨みか…。」彼は興奮とともに考えた。
桶に近づくと、そこから微かな水音が聞こえ始めた。
その音は、まるで誰かが囁いているようだった。
竜也は耳を澄ました。
「水が語る？そんなはずは…。」
その瞬間、桶の水が急に波打ち、竜也の目の前に何かが浮かび上がった。
影のようなものが水面に現れ、次第に形がはっきりしてくる。
それは、長い黒髪の女性の姿だった。
彼女は水の中で静かに微笑んでいたが、その目はどこか虚ろで、不気味なものを秘めていた。
「あなたは誰？」竜也は恐れを感じながら問いかけた。
すると彼女の口から、低い声で「私は水の恨み。あなたが私を呼び寄せたのよ。」と返ってきた。
「呼び寄せた…？」
「この場所に来たのはあなた自身。私を試そうとしているの、そうでしょ？」その言葉に、竜也は自分の行動を思い浮かべた。
恐怖心を抱きつつも、彼は自分の興味を満たさなければならないと思った。
「それなら、あなたの恨みを語ってみてよ。」
すると、彼女の表情は変わり、恨みの声が耳元に響く。
「忘れ去られた村の記憶の中で、私の存在は水のように流れ続けた。人々は私を恐れ、近づくことを拒んだ。しかし私は、この場にいることを許された。」
その言葉には、かつての悲しみが詰まっていた。
竜也はその感情に引き込まれ、少しずつ彼女の過去を理解していく。
「あなたの話をちゃんと聞きたい。」と彼は言った。
「でもね、その代償を払わなければならない。」恨みを語る彼女は笑いを浮かべた。
「あなたをこの場所に留める罠にかけなければ、真実を明かすことはできない。」
その言葉とともに、桶の水はぐらりと揺れ、竜也は自分の周りに暗い影が広がるのを感じた。
恐怖で心臓が速く打つ中、彼は逃げることを考えたが、足が動かない。
彼は彼女の罠にかかってしまったのだ。
「もう逃げられない。水の中に閉じ込められ、私の恨みを感じながら、永遠に語り続けるの。」彼女の声は冷たく響いた。
竜也は必死にもがくものの、力が抜けていく。
水面からは、不気味な笑い声が広がっていく。
彼はすべての恐怖を感じながら、「どうしてこんな…」と口にした。
その瞬間、目の前の水面が巨波のように激しく波打ち、彼の記憶を飲み込んでいく。
彼の意識は、次第に遠のいていった。
竜也は、水の中で彼女と共に、語られる恨みに飲み込まれていく。
「忘れない…永遠に私のことを…」その言葉が、暗闇の中で響き渡った。
小屋の前では、薄暗い影が生まれ、その影は今も水の恨みを語り続けている。
村人たちはそのことを知る由もなく、誰もがきっと、同じように無邪気な好奇心から罠にかかることだろう。
