「母の情が宿る部屋」

薄暗い座の中、父の遺品として受け継がれた一軒の古い屋があった。
この屋は家族の思い出が詰まっている場所であり、私にとって特別な存在だった。
しかし、屋の奥には、誰も近づこうとしない禁断の部屋があった。
その部屋には、私の母が生前に大切にしていた一枚の絵が飾られていたという。
しかし、母が亡くなった後、その絵は姿を消してしまった。

時は流れ、私は大人になり、故郷を離れて暮らすようになった。
しかし、ある夜、夢の中で母が呼んでいる声を聞いた。
目が覚めた私は、思い立って座に戻ることにした。
母の愛情を感じられる場所、それは私にとって唯一の帰る場所だった。

座に着くと、やはり古びた屋の中に懐かしさを感じた。
しかし、禁断の部屋に目を向けると、自然と足がそちらに向かっていた。
扉は古びていて、開けるのに一苦労する。
やっとの思いで扉を開けると、暗い空間に冷たい空気が流れ込んできた。

その部屋の中には、母が愛していたはずの絵が見当たらなかったが、代わりに薄煙のようなものが漂っていた。
私はその正体に気付き、ぞっとした。
もしかすると、母の情がこの部屋に閉じ込められているのかもしれない。
私がこの屋に帰ったのは、母の思いを受け止めるためだったのではないかと考えた。

その瞬間、壁にかかっていた古い鏡がひび割れ、その中から母の姿が浮かび上がった。
彼女は少し悲しげな表情を浮かべ、私を見つめていた。
「あなたがここに戻ってきてくれたのね」と、鏡から声が響いた。
驚きと感動が入り混じり、言葉も出なかった。

「でも、あなたは私の代わりに、この屋を守らなければならない」と、母の声が続ける。
「私の情を理解して、そして解放してほしい。」

私はその言葉に心を動かされ、自分の死んだ思い出を整理することにした。
母との思い出が描かれた絵を探し出すため、この屋を徹底的に調べる決意をした。

探し始めて数時間が経った頃、冷たい風を感じた。
ふと目を向けると、屋の隅に小さな引き出しがあった。
開けてみると、懐かしい絵の具と筆が入っていた。
それを手に取った瞬間、私の手に母の情が降り注ぐような感覚があった。
そこから感じ取ったものは、愛、悲しみ、そして未練。

私は絵を描くことにした。
母と一緒に過ごした日々を思い出しながら、彼女が愛した風景や花を描き始めた。
それはまるで、母の情を受け継いでいるかのようだった。
描いているうちに、静まり返った部屋に母の声が聞こえてくるかのように感じた。
「そう、これが私が求めていたものよ。」

数時間後、私は一枚の絵を完成させた。
そこには、母と私が一緒に笑っている姿が描かれていた。
鏡の中に映る母の姿は、穏やかな微笑みを浮かべていた。
「やっと解放されたわ。ありがとう」と、彼女が言った。

その瞬間、部屋の空気が変わり、母の存在が薄れていくのを感じた。
彼女はやっと安らぎを得られたのだ。
私は複雑な思いを抱えながらも、母の情を感じたことに感謝した。

屋の中は、今までの不気味な雰囲気が消え去り、暖かい光に包まれていた。
私は母の愛情を胸に刻み、家族の思い出と共に生きていくことを決意した。
彼女の情は、今も私の中で生き続けているのだ。

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