舞台は、山奥にひっそりと佇む古い民宿。
周囲は厚い森に囲まれ、日が沈むと不気味な静けさが支配する場所だった。
ある夏の終わり、浩二と友人たちはその宿に週末の旅行を計画した。
目的は、自然の中でのんびり過ごし、非日常を楽しむこと。
しかし、宿の扉を開けた瞬間、浩二は何か異様な空気を感じていた。
宿の主人は無口な老人で、まるでこの場所に隠された秘密を知っているようだった。
夜が訪れると、浩二たちは食卓を囲み、明るい話題で盛り上がっていた。
しかし、宿は暗く静まり返り、外からかすかに聞こえる虫の声すらも途切れてしまう。
浩二は友人たちに「皆、なんだか変じゃないか?」と不安を漏らしたが、友人たちはそれを笑い飛ばした。
その晩、浩二は夢の中で一人の女性に出会った。
彼女は白い着物を着ていて、無表情で彼を見つめていた。
浩二は恐怖を感じながらも、その女性に引き寄せられるように近づく。
「私はこの宿に残された者。私の想いを解放してほしい」と彼女は静かに言った。
目が覚めた浩二は、夢のことを忘れようとしたが、繰り返し続くその夢に悩まされることになった。
彼女の声が耳に残り、日常生活が徐々に崩れていくのを感じた。
興味を持った友人たちは、宿の主人にその夢のことを尋ねることにした。
宿の主人は、女性がこれまでに宿で命を絶つことになった経緯を語った。
彼女はかつてこの宿の主の娘であり、家族の愛を失うことで命を絶ったのだ。
その想いが今も宿に残り、彼女の家族のもとに行けないままでいるという。
浩二はその話を聞いて、胸が締め付けられる思いを抱いた。
次の日、浩二は夢の中の女性に再び聞いてみた。
「あなたを解放するにはどうすればいい?」彼女は一瞬目を閉じ、涙を流しながら「私の気持ちを伝えてほしい。私の家族はまだ私を探している」と告げた。
その言葉は浩二の心に響いた。
浩二は友人たちに相談し、彼らは協力することを約束した。
彼らは、その女性が愛し続けた家族を見つけ、彼女の想いを伝える旅に出ることに決めた。
そのためには、過去の出来事を掘り起こし、地域の人々を訪ねる必要があった。
何日もかけて調査を続け、ようやく彼女の家族が住んでいた町にたどり着いた。
そこにいた年老いた女性に、この宿での出来事を話すと、彼女は驚きを隠せなかった。
「うちの娘がそんな目に遭っていたなんて。」彼女は涙を流しながら謝罪し、浩二たちが届けた想いに感謝した。
その瞬間、浩二の脳裏に、夢の女性の微笑みが浮かんだ。
彼女は安らかに眠ることができるだろうと信じた。
宿に戻ると、あの不気味な雰囲気は完全に消え去っていた。
その後、浩二たちは宿に再度訪れることはなかったが、彼らは共有した想いが人の心をつなぐことを知った。
失われた時間を償うかのように、浩二たちは週末ごとに集まり、彼女の話を語り続けた。
やがて、悠久の時が流れ、宿は他人に引き継がれた。
しかし、宿の中で語られる物語は、彼女の想いとともに語り継がれることになり、彼女はついに世を超えた存在となった。