裕樹は、家族と一緒に古びた実家に帰省することになった。
そこは、代々続く彼の祖先が住んできた家だった。
小さな頃から何度も訪れていた場所ではあったが、最近は疎遠になっていた。
久々の帰省に心躍らせる一方で、蔦の絡まった縁側に佇む家を見て、どこか不気味さを感じていた。
夜、裕樹が寝静まっていると、不意に夢の中で誰かに呼ばれる声が聞こえた。
「裕樹…」その声は、どこか懐かしく、優しい響きを持っていた。
裕樹はその声に導かれるように、夢の中で実家の縁側に立っていた。
月明かりに照らされる中、彼はそこに座る何かを見る。
ふと、その影がはっきりと見えた時、裕樹は心臓が飛び跳ねる思いがした。
それは、祖母だった。
裕樹が幼い頃に亡くなったはずの彼女が、そこにいた。
白い着物を着た祖母は、薄笑いを浮かべながら目を細めて裕樹を見つめていた。
「裕樹、私はここにいるよ」と彼女の声は優しさを帯びていたが、どこか異様で不気味な感覚が広がった。
違和感を抱きながらも裕樹はなぜか安心感を覚え、彼女の方へと寄り添った。
目が覚めると、裕樹は夢の細部を思い出し、彼女の言葉が心の中で反響していた。
祖母が存在する可能性を考え、裕樹はその夜、祖母の遺品の中から古い御守りを見つけ出した。
その御守りは、眠っている間も彼に何かを訴えているように感じられた。
裕樹はそれを通じて、祖母の存在が今もどこかで彼を見守っているのだと信じるようになった。
数日後、裕樹は再び夢の中で祖母と会った。
今度は彼女が流し目をしながら、家の奥に案内する。
裏庭の古い戸は、普段は閉じられているが、夢の中では開かれていた。
「裕樹、こちらへ来て」と祖母が言った。
その言葉に引き寄せられるように、裕樹はその戸を越えた。
戸の向こうには、色鮮やかな花が咲き誇る美しい庭が広がっていた。
そこにいる人々は、裕樹の知らない顔だったが、彼らは優しく微笑み、手を振って迎えてくれた。
裕樹はその光景に心を奪われ、初めての感覚で温かな何かに包まれているような気分だった。
しかし、ふとその瞬間、背後で何かの気配を感じ、振り向くと、その顔は祖母のものではなかった。
突然、景色は変わり始め、暗闇が彼を包み込んだ。
裕樹は恐怖に駆られて駆け出した。
その瞬間、睡眠中に感じていた祖母の存在が、一瞬で消え去ったように感じられた。
彼は動けなくなり、苦しい思いをした。
「裕樹、私が必要な時に戻ってくるから、忘れないで」と、何かの声が耳元でささやいた。
やがて目が覚めた裕樹は、心に深い穴が空いているように感じた。
彼は不安を抱きながらも、もう一度祖母を夢の中で呼び寄せることができないかと願った。
その晩、再び夢の中に入り込むと、彼女は優雅な笑みと共に再び現れた。
しかし、今度は祖母は悲しそうな眼差しで裕樹を見つめていた。
「お前を見守ることはできるけれど、もう少しこの世に留まらないとならないの」と語りかけてくるたび、裕樹の心には彼女の魂の重みがのしかかっていた。
その瞬間、裕樹はわかった。
祖母の魂はこの世に留まろうとしていた。
それは、彼の心の中に存在していることを意味していた。
それから数日後、裕樹はその実家を後にすることになったが、心の中に彼女の存在を抱きしめていた。
戸を閉める際、裕樹は振り返り、静かに呟いた。
「また会いに来るよ、祖母。」その瞬間、背後から風が吹き、浮かび上がる声が聞こえた。
「私のことを忘れないで。」それは、祖母の魂が永遠に続いていることを感じさせる、力強いメッセージだった。