彼女の名前は理恵。
普段は何気ない日常を送る平凡な大学生だったが、最近、彼女の周りで奇妙な現象が起こり始めた。
大学の講義が終わった後、彼女は友人たちと帰途につくのが日課だった。
ある日、帰り道の途中にある小さな神社の前を通り過ぎたとき、何かが彼女を引き止めた。
神社は周囲の雰囲気とは明らかに異なり、陰が深く、不気味な空気に包まれていた。
彼女は立ち止まり、境内に足を運ぶことにした。
静まり返った神社の中、彼女はふと、古びたお守りが目に留まった。
手に取ってみると、それは「間」と書かれた文字が彫られたお守りだった。
理恵はそのお守りの意味を知らなかったが、不思議な魅力に引き寄せられた。
神社の片隅に置かれているそのお守りを握りしめると、急に視界が歪み始め、周囲の音が途切れた。
彼女は一瞬、意識を失ったかのように思えた。
気がつくと、時間が止まったような不気味な空間に立っていた。
その空間には何もない。
ただ静けさと、彼女自身の呼吸音だけが響いていた。
彼女は、自分がどこにいるのか理解できず、恐怖に駆られた。
その瞬間、背後からかすかな声が聞こえた。
「死者はここに集まる」と。
振り返ると、そこにいたのは衣擦れの音を立てながら、数人の人影だった。
彼らの顔はどこかぼやけていて、はっきりしない。
理恵は息を呑み、恐怖に震えた。
「あなたたちは誰?」と問いかけるが、声は出なかった。
ただ、静かな微笑みを返されるだけだった。
その中の一人がゆっくりと近づいてきた。
そして、言葉を発した。
「私たちは、あなたの前に立つべき人々。命が終わり、新たな「界」に行く準備をする者たち。
」理恵は愕然とした。
彼女たちは、死を迎えた者たちだったのか。
「間は生と死の狭間。ここにいるのは、選ばれた者だけ。」言葉の説得力に、理恵はどこか引き込まれたように感じた。
「あなたもこの場所に呼ばれた理由がある。」
その言葉に理恵は身震いした。
自分が何かのトリガーによってこの「間」に引き込まれたのか。
お守りのせいなのかもしれない。
目の前の存在たちの姿が徐々に明瞭になり、彼女はその顔を知っていた。
そう、これまで身近にいた人物の顔がちらつく。
数日前に亡くなった彼女の親友、高橋美沙がその中にいた。
理恵は心の中で叫んだ。
「美沙、あなたはここにいるの?」美沙は微笑み、そして頷いた。
しかし、その瞳の奥には深い悲しみが宿っていた。
「理恵、心配しないで。これは一時的な「間」。
しかし、私たちがここにいる意味を知ってほしい。
」美沙の言葉は彼女の心の奥に突き刺さる。
「私たちは死に惑わされている。あなたも、いつかこの場所に来ることになるの?」
理恵は衝撃を受けた。
その問いかけは重く、答えることができなかった。
「私は、どうしたらいいの?どうやってここから出られるの?」混乱のまま彼女は問い続けた。
周囲の存在たちが一斉に静まり、次に美沙が口を開いた。
「この「間」における選択が重要。
生きたいなら、その心の弱さを断ち切りなさい。
私たちのように、永遠にここに留まる者たちを選んではいけない。
」
理恵は心の中で葛藤し始めた。
友人を失い、悲しみに追われていた自分が、その影響でこの「界」に囚われてしまったのか。
再び時間が流れ始めたとき、理恵は急に無力感を振り払った。
「私は生き続ける。」その瞬間、再び周囲が静まり返り、彼女の周りの影は消えていった。
次の瞬間、彼女は神社の境内に戻っていた。
手には「間」と書かれたお守りが残っていた。
それを見つめながら、自分が生きている意味を思い知った。
彼女は、自分自身を取り戻し、再び前へ進むことを決意した。