小さな村にある、古びた神社の境内。
緑に覆われた神社は、平穏な日々を送りながらも、村人たちには避けられていた。
この神社には「止まる神」と呼ばれる神が祀られており、訪れる者はその神に遭遇することで、自らの人生が永遠に止まってしまうという噂があった。
ある日のこと、大学生の直樹は、友人の亮と美咲と共にこの神社を訪れることにした。
彼らはこの噂を冗談に思い、肝試しとして神社の奥まで足を踏み入れることになった。
「ここが止まる神の神社か。全然恐くないじゃん!」と、直樹は陽気に言った。
しかし、美咲は不安げに周囲を見回していた。
「本当に大丈夫かな…?」
「大丈夫だよ、ただの噂さ!」亮は笑って言い放ったが、その声には少しの緊張感が混じっていた。
彼らは神社の本殿へと足を進める。
本殿には、古びた神様の像が佇んでいた。
直樹は興味本位でその像に近づき、手を触れようとした。
その瞬間、不思議な風が吹き抜け、神社全体が震えた。
「何だ、急に冷えたな」と亮が言った。
美咲は震える声で、「早く帰ろうよ…」と訴えた。
しかし、直樹はそのまま像に触れ続け、何か尋常ではない感覚を覚えた。
心の中に、止まってしまう恐れが広がり始めた。
「やめろ、直樹!帰ろう!」と亮が叫び、直樹を引き離そうとしたが、彼は動かない。
その時、視界の端に神社の周囲が歪んで見えた。
瞬間、彼らの身体がまるで重力に逆らうように浮かび上がり、空間が止まった。
時の流れが遅くなり、直樹は不思議なことに、心の中で算出しなければならない計算式のようなものを感じていた。
「何かがいる…!」と美咲が叫び、彼らの視界の中に小さな影が現れた。
それは、かつてこの神社を訪れた者たちの霊だった。
彼らは唸り声を上げながら、肉体を失った悲しみを抱えて彷徨っていた。
「助けて…私たちも帰りたい…」その声は、直樹の耳に突き刺さった。
直樹は薄れ行く意識の中で、心の底から何かを計算しようとし始めた。
「帰るためには、何をすればいい?」その問いが頭の中を渦巻く。
そして、彼は気づいた。
恐らく、この神社の神は彼らの帰り道を示してくれる算式を持っているのだと。
「やっちゃいけないのは、この神に触れることだ。私たちは帰りたいなら、この神から目を背けなきゃいけない」と直樹は声に出した。
美咲と亮も頷いて、それぞれの心で同じことを理解し始めていた。
彼らは一点を見つめ続け、心の中でそれぞれの帰り道を描きながら神様から目を背けた。
すると、不思議なことに神社の周りが静まり返り、突然時の流れが戻ってきたかのように感じた。
彼らは力を合わせて、逃げ出すように本殿から走り出した。
外に出た瞬間、彼らは息を呑んだ。
神社の周囲には、緑に覆われた通常の風景が広がっていた。
時が戻ったような感覚だった。
「もう大丈夫だ!」亮が叫び、直樹と美咲は安堵のため息をついた。
だが、帰る道すがら、直樹はしっかりと心に刻んだ。
「絶対に戻ることはできない場所がある。それを知った今、もう二度とこの神社には近づかない」と心に誓った。
その言葉は、彼の心の底に残り続け、神社の影がいかに深いものであったかを物語っていた。