「止まる村の選ばれし者」

若い女性、佐々木結衣は、長い夏休みを利用して友人たちと共に田舎の小さな村を訪れることにした。
この村は自然に囲まれ、心安らぐ場所だと言われていたが、彼女は村に伝わる奇妙な伝説に興味を持っていた。
特に噂されていたのは、「止まる村」という言葉だった。
その村の一部には、人々や時が止まってしまう場所があると言われていた。

その日の夜、結衣は友人たちと共にキャンプファイヤーを囲んで話をしていた。
村の人々から聞いた話に耳を傾けながら、彼女の心は村の片隅にある「止まる村」に向かって引き寄せられていった。
友人たちはその話を冗談にして笑っていたが、結衣の心には確かな興味が芽生えていた。

「ねえ、行ってみようよ!」結衣は目を輝かせて言った。
彼女の提案に友人たちは一瞬戸惑ったが、好奇心が勝ってしぶしぶ賛成した。
暗闇の中、彼女たちは懐中電灯を手にし、村の奥へと足を運んだ。

進むにつれ、空気が重く感じられた。
まるで時間がゆっくりと流れているかのようだった。
彼らがたどり着いたのは、古びた神社だった。
木々に囲まれ、静寂が漂っていた。
神社の前に立つと、全てが止まったかのような感覚に襲われた。

「なんか不気味だね…」友人の高橋が不安そうに呟いたが、結衣は「大丈夫、大丈夫」と言いながら神社の中へと足を踏み入れた。
そこには、古いお札やほこりを被った神具が置かれていた。
結衣はその不気味な静けさに目を奪われながら、「何かを感じる」と呟いた。

その瞬間、背後から冷たい風が吹き抜け、全員の体が凍りついた。
薄暗い空間の中、かすかに人の声が響いたように感じた。
「止まれ…」それはまるで、彼らを止めるかのような、引き寄せる声だった。
友人たちは恐怖で一歩後退したが、結衣はその声に魅了され、奥へと進んでいった。

奥の祭壇の前で、彼女は何か不思議なものに気を取られた。
それは、真っ白な布に包まれた鮮やかな光を放つ石だった。
結衣は手を伸ばし、その石を触れようとした。
しかし、その瞬間、彼女の周りの時間が止まったかのように感じた。
友人たちの表情は驚愕に満ちたまま、動きを失っていた。

結衣はその光に引かれて一歩前に出た。
だが、その瞬間、彼女の体は動かず、まるで時間の流れに逆らっているかのような感覚に陥った。
「止まれ…」その声は再び響き、結衣は気がついた。
自分が村にとっての「選ばれた者」になったのではないかと。
彼女の心の奥にあった恐れが一気に噴き出す。

結衣は急いで振り返り、友人たちに助けを呼ぼうとしたが、彼らは固まったまま一歩も動けない。
彼女の意識は次第に薄れ、光に包まれた瞬間、彼女のすべてがその石に吸い込まれていくような感覚がした。

「止まりなさい!」その声が再び耳元で囁いた。
結衣は恐怖に駆られ、必死で逃げようとしたが、すぐに視界が真っ暗になり、意識が途切れた。

彼女が目を覚ましたとき、彼女は元の神社の祭壇の前に立っていた。
しかし、周りには友人たちの姿はなかった。
時間は再び流れ出したかのようで、神社の静けさも変わらない。
彼女は一人、小さな村に取り残され、心の奥に「選択の代償」を感じながら、静かな夜を迎え入れた。

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