修は、静かな山村に住む普通の大学生だった。
都会の喧騒から逃れるため、彼は毎年夏休みになるとこの村に帰省するのが恒例となっていた。
村には彼の祖父母が住んでおり、彼はそこでの平穏な日々に癒されていた。
しかし、その年は何かが違っていた。
村に向かう途中、修はふと立ち寄った古びた神社の前で、何か気配を感じた。
まるで彼を呼んでいるような不気味な感覚だ。
彼は不思議に思いながらも、神社の中に足を踏み入れた。
すると、そこには長い間誰も訪れていないかのように、落ち葉が積もった境内が広がっていた。
そして、一段と不気味な空気が流れる中、社の扉がきしむ音を立てて少しだけ開いていた。
中に入ると、竹のように細い柱に囲まれた空間が目に入った。
そこで修は、不思議な光景を目にした。
大きな鏡が中央に据えられ、その前には無数の小石が整然と並んでいる。
それぞれの石には、連れ去られた動物や人々の名前が刻まれていた。
修はどこか心惹かれるものを感じ、しばらくその場に立ち尽くしていた。
しばらくして、彼はその神社で感じた異様な気配を思い返しながら、遅い昼食をとることにした。
村には小さな食堂があり、地元の人たちで賑わっていた。
しかし、いつもと何か違う雰囲気を感じる。
村人たちの視線はどこか棘のように痛い。
「最近、夜になると不思議な現象が起こる」と村人の一人がささやいていた。
その言葉が耳に入ってきた瞬間、修の中で火花が散った。
あの神社のことを思い出したのだ。
夜になると、村には普段の静けさが一変した。
何かが迫っているような緊張感が漂っている。
修は好奇心に駆られ、再び神社へ向かうことにした。
薄暗い道を照らす街灯の光が、不気味に揺れているように感じた。
神社に到着すると、さっき見た鏡の前に一人の少女が立っていた。
彼女はぼんやりと鏡を見つめ、まるで取り憑かれたかのようだった。
修は最初、「何をしているのか」と声をかけようとしたが、彼女の周りには暗い霧が立ち込め、言葉が飲み込まれてしまった。
彼女は「止まって」と小さく呟くと、その瞬間、周囲の空気がぴんと張り詰めて、時が止まったように感じた。
その後、修は気がつくと、彼女が身を翻し、彼をじっと見つめていた。
彼女の目には何か異様な光が宿っており、修は恐怖で硬直した。
彼女の口から流れる言葉は、まるで誰かの思いを代弁するかのようだった。
「この村には、昔から人々の願いを叶えるために、魂を止める神がいる。彼に捧げなければ、村は………」
彼女の言葉が途切れた瞬間、修の視界が暗くなり、意識を失いそうになった。
強い力が彼を引き寄せ、そのまま鏡に吸い込まれていく感覚がした。
修は絶望的な気持ちになりながらも、「戻りたい」という思いを必死に叫んだ。
気がつくと、彼は再び神社の外に立っていた。
何が起こったのか分からないが、彼は今すぐに村を離れなければならないという決意に駆られた。
不気味な感覚が頭をよぎり、修は走り出した。
村の出口に近づいていくと、後ろから誰かの声が聞こえた。
「私を忘れないで…」
その声が村から離れるたびに大きく響き、修の心には重くのしかかってきた。
家族や友人が待つ町に戻ることはできても、彼の中にはもう一つの現実が根付いてしまっていた。
永遠に止まった時間の中に、彼が訪れた村の影が彼の心を占めていることを、修は理解した。