時は、夏の盛り。
まるで昼間の太陽が燃え盛るかのように、町は暑さに包まれていた。
そんな中、一人の大学生、佐藤俊一は、友人たちと一緒に肝試しに出かけることにした。
彼らが向かったのは、町外れにある古い学校だった。
この学校は、かつて事故で多くの生徒が命を落とし、以来、幽霊が出ると噂されていた場所だった。
「怖がるなよ、俊一。肝試しなんだから、楽しもうぜ!」と、友人の山田が笑いながら声をかける。
俊一もその気にさせられ、薄暗い校門をくぐった。
中に入ると、静まり返った校舎が目に入る。
風で揺れる木々の音と足元のタイルのきしむ音だけが響く。
「やっぱり不気味だな。」俊一は小声でつぶやいた。
彼の心のどこかで、恐れが芽生えていた。
この学校には、闇に閉ざされた何かが潜んでいると知っていたのだ。
仲間たちは校内を散策しながら、次々と恐ろしい話をして盛り上がる。
俊一も自分の知らない話を聞きながら、一瞬、過去の出来事がどこかに自分を引き寄せようとしているように感じた。
その時、彼の視界の片隅に、かすかな動きを感じる。
「ほんの一瞬、何かが見えた気がする…」と思いつつも、彼は振り返ることができなかった。
それからしばらくして、彼らは廊下の突き当たりにある、長い間閉ざされた教室にたどり着いた。
ドアの前には「入るな、決して」という落書きがある。
好奇心が勝った俊一は、友人たちに促されドアを開けることにした。
彼がドアを開けると、ひんやりとした空気が流れ込んできて、心臓が高鳴る。
中は真っ暗で、窓も塞がれていた。
その時、山田が懐中電灯を点ける。
すると、床には一枚の古びたノートが転がっていた。
俊一がノートに手を伸ばそうとした瞬間、教室の隅でかすかな声が聞こえた。
「助けて…。」それは弱々しい声だったが、他の友人たちは気づかず、俊一だけがその声に耳を傾けた。
「聞こえたか?」俊一は興奮しながら友人たちに告げる。
だが彼らは笑って、「気のせいだろ」と一蹴した。
俊一は再び声を聞こうと意識を集中した。
その時、彼の目の前に、青白い少年の姿が現れた。
彼は無表情で立っており、俊一の方をじっと見つめていた。
「どうしたの?」俊一は恐れを感じながらも声をかける。
すると少年は、口を開けて言った。
「助けて…、ここから出られない。」その瞬間、俊一の心に強烈な悲しみが押し寄せてきた。
少年は、かつてこの学校で命を落とした生徒そのものであると直感した。
「君は…、何があったの?」尋ねる俊一の声に対し、少年はほぼ無に近い声で語り出す。
「出られない理由は、止まった時の界に閉じ込められているから。でも、助けてくれればこの場所から解放されるかもしれない…。」
俊一はその言葉の重さを理解し、心の中の恐れが氷のように固まっていくのを感じた。
しかし、彼は仲間たちが待っていることを思い出し、少し後ろを振り返った。
その瞬間、少年の姿が消えた。
教室の空気が一気に重くなり、異様な冷気が流れ込んできた。
「俊一、早く出ようぜ!」山田が急かす声が耳に響く。
俊一は思わずノートを手に取り、友人たちの元に行こうとした。
しかし、地下室の方から再び声が響いた。
「ここに留まって。逃げてはいけない…。」
その声に引き寄せられ、俊一は振り向いてしまった。
すると、そこには無数の影が生じており、彼を囲むように立っていた。
仲間たちが恐れに駆られ、逃げる準備をしているのが見えた。
「早く、行こう!」俊一は声を張り上げた。
しかし、その瞬間彼の背後から何かが彼を掴んだ。
周囲の仲間たちの叫び声が混ざり合い、俊一はその場から離れられなかった。
まるで、彼の意思とは裏腹に、時が止まってしまったかのように感じた。
結局、彼は逃げ出すこともできず、暗闇の中に取り残されてしまったのだった。
その後、友人たちは学校から逃げ出し、決して振り返ることはなかった。
去り際、彼らは未練の残る声と思い出を感じつつ、夏の暑さに飲まれて消えていった。
しかし、俊一の姿だけが、時を止められ、界に閉じ込められたまま、永遠に彼の心の中に沈んでいくこととなるのだった。